<バス旅記>

デニッシュのほか、
パンの種類は豊富。
8〜19時。日祝、第1・3土休
前回、聖マリアンナ医科大学前停留所から乗車したバスの旅。今回はそのお隣の停留所、聖マリアンナ医大入口から出発です。
じつは前回、この2つの停留所のあいだに気になるお店を見つけていました。その店の名前は「ベーカリーマルグレーテ」。サクラの木の下に立てられた看板には「手づくりパン」「DANISH BAKERY」の文字が躍り、三角屋根の店舗にはお客さんが頻繁に出入りしています。
店内で目をひかれたのは、パリパリサクサクに焼き上げられたデニッシュ。自家農園で栽培されたイチゴ、ブラックベリー、リンゴなどのフレッシュなフルーツをのせたデニッシュは季節ごとに多くの人々を喜ばせているそうです。
店先にはテーブルとイスが置かれ、買ったばかりのパンを「待ちきれない!」とばかりにほおばることも可能。植木鉢に盛られたかわいい花々を眺めながら、出発前の腹ごしらえといきましょう。

竹林の中へと消えていく小道。
スイセンの花がエスコート
さぁ、バスに揺られて、春の陽ざしがおだやかな街のなかを進みます。この日はサクラが見ごろを迎えてから数日後。風にのって舞う花びらが車窓にちらちらと映ります。住宅街の向こうに見える丘陵は新緑の芽生えが始まり、みずみずしいばかりの風景。目も心も洗われていくようです。
「長沢商店会」を走り抜け、交差点を曲がっていった前方に花ふぶきがいちだんと舞う一画。よし、ここでちょっと降りてみようと、校庭のサクラを頭上に仰ぐ百合丘高校裏停留所に下車します。右手の農地には満開の真っ赤なボケと白いユキヤナギ。その奥には竹林。1本の小道が伸びているのが見えます。
竹林を背にする民家の庭には石造りの鳥居。郷愁を誘うのどかな眺めに足は小道へと進み、1歩1歩ゆっくりと、ときには立ち止まりながら、そこに漂う雰囲気を楽しみます。

交通量もそれほど多くなく、
近隣の人々の格好の散歩道
次に目にしたのは、みごとなサクラ並木。2車線の中央に600メートル以上にわたって、木々が頭に綿菓子をのせたような姿で連なっています。両脇には若芽を吹くケヤキの木が並び、美しい景観を形成。ケヤキの足下にはツツジの植栽が続き、4月下旬からは、またちがった彩りを披露してくれるでしょう。
通りの途中に「新鮮な朝取り野菜」「生みたて新鮮たまご」と書かれた自動販売機。小さく仕切られた扉の中を覗くと、白や茶色のたまごが赤いアミの中におとなしく収まり、扉を開けてくれる人を今か今かと待っています。
野菜は自動販売機の横に設置された棚にも置かれ、ホウレンソウの緑がきれい。葉の先までピンと張っていて、いかにも新鮮です。

お稲荷さんの鳥居と一面に
広がるホトケノザの紫色の花
「小学校の前の通りをまっすぐ下って右の方へ行ったところに『須賀神社』があるんだけどね、そこのシダレザクラもきれいだよ。でも、見ごろは過ぎちゃったかな」とは、散歩中のおじいちゃん情報。サクラ並木の端から端まで歩いて、気分は最高。もう少し付近を散策してみましょう。
丘の斜面にミカンの木。地面一面にタンポポとホトケノザ。花をいっせいに咲かせ、春の到来を知らせてくれる野草たちに愛おしさを感じます。ぶ〜んと飛んできて顔に当たり、草の上にぽてりと落ちたのはテンテンが2つのテントウムシ。春だなぁと、実感です。
斜面の上方には真っ赤な鳥居とお堂。よいしょとよいしょと上ってみると、鳥居の額に「正一位谷戸稲荷大明神」。お堂では2体のお狐さまがお守りしていました。

須賀神社の境内には
ソメイヨシノもあり、
春は花が絶えない
さてさて、須賀神社はどこでしょう? そこらじゅうに飛び出しているツクシや柿の生まれたての葉を眺めつつ、庭で植木いじりをしているおとうさんに道を聞きつつ、ようやく到着。
須賀神社は慶長年間(1596〜1615)、須佐之男命を勧請。境内の記念碑によると、天保11年(1840)に建てられた社殿を昭和49年(1974)に新築。当時、周辺は市街化が進んで宅地造成が計画され、その地内の「栗谷遺跡」からは縄文、平安時代の住居跡や石器、土器が発掘されたそうです。
シダレザクラの見ごろはやはり過ぎていましたが、四方八方に伸びた枝ぶりは立派なもの。例年の開花は3月下旬で、満開時にはライトアップも行われるとのことなので、来年はぜひ訪れようと楽しみにします。

栗谷町会会館の前に祀られている石塔。
花々とともに
春の花に誘われて、すっかり寄り道。いいかげんにバスに乗らなくては“バスの旅”にならない……と、手持ちの路線図を見てバス停へ向かいます。
栗谷町会会館の前で、栗谷町会会館“前”停留所を発見。時刻表を見ると、んん? このバス停から乗車できるのは、逆方向の聖マリアンナ医科大学前行き。生田駅行きの栗谷町会会館“下”バス停はどこ? ときょろきょろします。
そこで目に入ったのは2基の庚申塔と地神塔、そして道祖神塔。庚申塔の1基には「元禄三年」(1690)、地神塔には「願主 栗谷中(?)」の字が読め、須賀神社に続いて、この地域の歴史を垣間見た思いがします。
そうそう、栗谷町会会館“下”。“下”というからには、下へいけばいいのかなと、石塔の後ろの坂を下へ。無事、バス停と出会え、生田駅へ向かったのでした。
文・写真・地図:森田奈央 2008年4月に取材しました。
川崎市在住のフリーライター。散歩が好きで、
好奇心のおもむくままに日々歩きまわっている。著書に猫を追いかけて歩いた「ネコ路地へ行こう」(小学館文庫)。
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