<バス旅記>

桜並木がどこまでも続く 鷺沼駅周辺
暖冬と言われている今日この頃。春の足音も猛スピードで聞こえてきそう……? そこで考えるのは、今年のお花見はどこでしようかな、ということです。
平成10年度の区のイメージアップ事業において、宮前区の木は桜と制定されました。「桜には人々を呼び集めてコミュニケーションを活発にする力があり、宮前区もそのような街になればという願いから選ばれました」(『みやまえガイドマップ』より)とのことで、宮崎台駅周辺をはじめとする駅前や区内に散らばる公園では桜の木が多く見られます。
よし、それでは、ちょっと先取りして、宮前区の桜の名所を下見といこう! 前回の『宮前バスの旅』で手に入れた『宮前区ガイドブック』と『宮前区内バス系統図』とにらめっこして、鷺沼駅発、梶が谷駅行きのバスに乗ることに決めます。

鷺沼公園の散策路には 桜の木が並ぶ
バスに乗車する前に、しばし鷺沼駅周辺を散策。バスロータリー前から鷺沼小学校へ下る「春待坂」の両側には桜並木が続いています。平行する東急田園都市線が走り行くのを眺めつつ、桜の花びらが舞い散る様を想像したら、ちょっぴりくすぐったい気分になってきました。
鷺沼小学校の先には「鷺沼公園」。丘陵地の起伏を利用した園内には幹の太い立派な桜の木がたくさん並んでいます。春に散策道を行けば、きっと見事な桜のトンネルとなって迎えてくれるのでしょう。広場ではすべり台や上り棒などが組み合った大型遊具で子どもたちが元気いっぱいに遊びまわり、すでに寒さをふきとばす勢いです。

広くてお花見にうってつけの 小台公園
さて、駅に戻り、ようやくバスに乗り込みます。次の目的地は「小台公園」。宮前区ではほとんどの公園に桜の木が植えられているそうですが、鷺沼公園と小台公園はとくに桜の名所と知られています。
小台停留所で下車し、住宅街のなかへ1本入って行ったところで小台公園を発見。平坦でとても広く、まわりに桜の木がほぼ等間隔に植えられています。木に近寄って桜のつぼみをのぞき込んでみると、ぎゅっと固くとじられているものの、ほんのりとやさしい風が枝を揺らすと、もうすぐここでは人々がお花見のお弁当を広げるんだなぁと思えて、おもわず頬がゆるみます。
日射しがまぶしい午後のひととき、四方八方に伸びた枝の下には大きなシートが敷かれ、子どもを連れたおかあさんたちがおしゃべりを楽しんでいました。

のどかな風景の権六谷戸では 梅が満開
小台停留所から乗ったバスは国道246号を経て、野川台の住宅街へ。沿道にはケヤキとトチノキの並木が続きます。トチノキは5月頃に開花。桜から新緑に替わった街をクリーム色がかった白色の花がさらにまぶしく染めます。
野川台停留所でバスを降り、「権六坂」を下って行ったところに目的の「権六谷戸」。『宮前区ガイドブック』には「周辺にある桜の古木が谷戸の風景に彩りを添える」と書いてあったのですが、桜の木をなかなか確認できません。代わりに眺められたのは谷戸の奥まで連なり、あまい香りを漂わせる白梅でした。

権六谷戸で見つけた 立派な1本の桜
「向こうの丘の上に団地が見えるだろ? あそこの桜はここから見えると思うけど、あとはどこかにあったかな? 桜が咲いた後の山は緑がきれいだよ。これだけ山に囲まれているところはほかにもうないからね」と、ダイコンやネギが並ぶ畑で作業していたおとうさん。すぐそこの大きなお宅の庭に桜が1本立っていますよね? と聞いてみると、「あぁ、そうだった。あれは古い木で、1本だけだけど、とてもきれいなんだ」。自然に囲まれた場所では、桜は咲いてみないと、どこにあるのか気づかないものなのかもしれません。

川崎市青少年の家の桜は 背が高い
権平坂を上って、再び野川台停留所。『坂道は続くよ、どこまでも 第3回「梅の木坂」の巻』で訪れた梅の木坂をバスは下って行きます。咲いているかな? と窓にひたいをくっつけて見てみれば、こちらの梅も満開。斜面全体が赤白に染まっています。
尻手黒川道路沿いのJR貨物梶ヶ谷ターミナル駅前を右折すると、高津区。梶が谷四丁目の停留所から目指したのは、国道246号を越えて宮前区に戻った区境にある「川崎市青少年の家」です。
門を入った右側に、桜の木が枝を空高く拡散させています。その枝ぶりに圧倒されながら進むと、つきあたりに「武蔵野音頭歌碑」。武蔵野音頭とは宮前の青年団が戦争で傷ついた人々の心を癒そうと、旧陸軍の部隊跡地を開墾し、さつまいもなどを栽培して資金をつくり、完成させた歌です。

大きくて、奇妙な風貌の お化け灯籠
ここ青少年の家は旧陸軍の部隊跡地で、戦後は兵舎が建っていました。中庭の「お化け灯籠」も、その痕跡です。この灯籠は六本木にあった部隊の将校集会所の庭に置かれ、夜になると六本木界隈に化けて出ると噂されていたもの。昭和17年(1942)、部隊が移る際に灯籠もいっしょに連れてこられ、動かないように足の部分を埋められたとも、足を切られて移されたとも言われ、「お化け灯籠」の名で呼ばれ続けてきました。
おもしろいものがあるなと感心し、再度、桜の木のもとへ。これらの木も古くから立っているのだろうかと見上げます。そういえば、青少年の家から徒歩10分の宮崎台駅前では市民がつくる「さくら祭り」が毎年開催され、多くの人々でにぎわうそうです。お祭りもまた楽しそう! と、桜が開花する日を心待ちに、梶が谷四丁目停留所へもうひと乗り。
文・写真・地図:森田奈央 2007年2月に取材しました。
川崎市在住のフリーライター。散歩が好きで、
好奇心のおもむくままに日々歩きまわっている。著書に猫を追いかけて歩いた「ネコ路地へ行こう」(小学館文庫)。
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