<バス旅記>

彼岸桜が並ぶ秋月院の参道。
左側にいぼ取り地蔵の祠がある
バスに乗る前に、近くに建つ「秋月院」にちょっと寄り道。天正元年(1573)創建と伝えられ、本尊は準提(じゅんてい)観音。準西国稲毛三十三所観音霊場第11番札所のお寺です。
参道や境内には3月下旬から彼岸桜、山桜、八重桜が順番に開花し、近所の人々の格好の散歩道になっています。「3月中旬はしだれ梅、4月下旬は牡丹、その後はつつじと、花がたえない静かな寺。特徴的な白い花が咲く利休梅の古木、葉の裏に書いた文字や絵が黒く浮かび上がるタラヨウの高木などもありますよ」と住職さん。
参道の入口に享保18年(1733)建立のいぼ取り地蔵が奉られ、その隣には元禄10年(1697)建立の庚申塔。庚申塔にはよく「見ざる、言わざる、聞かざる」の三猿が彫られていますが、こちらは「聞かざる」の一猿で、めずらしいといわれています。

長沢浄水場。 建物右側の
ラッパ状に広がる柱が美しい
境内をゆっくり見てまわり、住宅街へ。細い坂道を上っていくと、道を隔てた向こう側に、高い塀に囲まれた規模の大きい施設が広がっています。ここは「東京都水道局長沢浄水場」。建築家の山田守氏によって設計され、昭和32年(1957)に完成したものです。
山田氏は多くの建築作品を残し、日本武道館や京都タワービルも氏による設計。正面奥の建物の右側部分に見られるラッパ状の柱と、上部が曲線を描くガラス窓のコンビネーションがなんともモダンな印象を醸し出しています。
そんな独特の雰囲気が漂っているからか、昭和40年代(1965〜1974)の頃には、「ウルトラマン」や「仮面ライダー」などの特撮作品のロケ地としてよく利用されていたそうです。

道路から石段で上っていける
昭和2年9月建立の馬頭観世音
さて、聖マリアンナ医科大学の正面玄関前ロータリーからバスに乗りましょう。清水台交差点で少々渋滞しましたが、浄水場通り、尻手黒川道路の車の流れはスムーズです。
犬蔵交差点を左折してすぐの犬蔵停留所で、まず下車。尻手黒川道路に平行する細い道を歩いていきます。住宅と住宅に挟まれた階段の上に、『 宮前バスの旅 第1回 鷲ヶ峰営業所前-宮前平駅の旅』で訪れた「犬蔵天神社」。そうだ、ここ前に来たことがあると、お堂のまわりに並ぶ石碑と再会し、石像の表情がそれぞれ豊かなことに気がつきます。
尻手黒川道路から入った先の急な坂道にはシラカシの保存樹林。頭上を覆う竹林を見上げながら行くと、左側にお地蔵さま、右側に馬頭観世音。ひょっとしたところで、こういった昔からのものと対面できることに、心が和みます。

2月16日、17日に行われた
開館記念祭の練習中におじゃま
坂上の住宅街は眺望がよく、遠くの高層ビル群も一望。畑の向こうに大きな建物が建っているのが目に入り、今度は何だろうと行ってみると、「あなたのからだがヨミガエル ミチガエル ワカガエル」と書かれた垂れ幕がぱたぱたとはためく「川崎市宮前スポーツセンター」でした。
平成18年(2006)4月に開館した施設内には、大体育室、小体育室、研修室、トレーニング室が設けられています。曜日によってリフレッシュ体操、エアロビクス、卓球、バドミントン、太極拳などを個人で登録や予約なしで楽しめ、各種トレーニング機器が置かれたトレーニング室も気軽に利用可。団体登録をし、「ふれあいネット(川崎市公共施設利用予約システム)」で申し込めば、団体で体育室や研修室を利用することもできます。
3〜4歳児と保護者向けの親子スポーツ、小学3〜4年生向けのJr.フットサル、15歳以上(中学生を除く)向けのピラティス、ヨガなど、平成20年度4〜6月開講予定のスポーツ教室も受講者募集中(申込期間は3月10日頃まで)。いきいきと体を動かす人々の笑顔がここにはあります。
※利用時間・料金や対象年齢など、詳しいことは宮前スポーツセンターホームページへ
http://miyamaesc.web.fc2.com/index.html

現在の社殿は昭和48年に再建。
禰宜舞は社殿で行われる
バスに再乗車し、次に降りたのは白幡八幡前停留所。康平4年(1061)、源頼義が奥羽征討で戦勝祈願し、無事に使命を果たして帰った際に奉祀した「白幡八幡大神」へ向かいます。
その後の戦乱によって荒れてしまった白幡八幡大神は建久3年(1192)、源頼朝によって再建。稲毛三郎重成が桝形山に本拠を構え、一帯の領主になると、稲毛領57ヶ村の総鎮守とされました。
7月第3日曜の夏祭と9月第3日曜の例大祭に行われる「禰宜舞(ねぎまい)」は川崎市重要習俗技芸指定の文化財。慶長5年(1600)に徳川家康が関ヶ原出陣の戦勝祈願のため、神主の小泉家に神楽を興行させたのが始まりといわれます。代々、口伝えに伝わる“一子相伝の舞” で、猿田彦命、天鈿女命など5人の神々に面や衣裳、持ち物を変えて扮し、1人で舞うものです。

目はヤツガシラ、角はゴボウ、
舌はニンジンで作られる大蛇
〈写真提供/白幡八幡大神〉
また、3月の初卯日(平成20年は3月4日)には「初卯祭」が行われ、わらで作った約3メートルの大蛇が鳥居に飾られます。
「毎年、氏子の当番により大蛇は作り変えられます。今年は太っているとか痩せているとか、年によってどんな大蛇ができあがるか、楽しみなんですよ」と神社の方。
「それから、1年の無病息災、五穀豊穣を祈って的に矢を射る『歩射(マトー)』も行われます。昭和30年代はじめまでは、高く盛ったごはんやごちそうが並ぶ『お高もり行事』も催されましたが、今は大蛇作りが大きな行事ですね」。
にぎやかなお祭りというより、昔からのしきたりを大切に続けているという初卯祭。地域の伝統がしっかりと守られているのだなあと感じました。
文・写真・地図:森田奈央 2008年2月に取材しました。
川崎市在住のフリーライター。散歩が好きで、
好奇心のおもむくままに日々歩きまわっている。著書に猫を追いかけて歩いた「ネコ路地へ行こう」(小学館文庫)。
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