
「相談販売のスタイルで今後も がんばる」と笑顔の楠本さん
生まれ故郷を飛び出したのは、いまからおよそ35年前に遡る。青年は大学進学を志し、福岡から上京した。そのとき生活のために世話になったアルバイト先が、知人の営む薬の小売店だった。
「面白かったですね。お年寄りから若いひとまでいろんな相談を受けたのですが、勉強して得た知識を伝えることが楽しかったし、非常にやりがいを感じた。そうした相談販売が、薬種商としての私の原点です」
薬を扱える仕事には2種類の資格がある。医薬品の調剤等に携わる「薬剤師」と、おもに相談販売を請け負う「薬種商」だ。薬店を営むためには、少なくとも薬種商の資格を取得しなければならない。薬の相談販売にやりがいを見出した楠本さんは、大学受験から一転、薬種商資格取得のための勉強に切り替えた。その結果、狭き門をくぐり抜け、現在の店を立ち上げるまでに至ったのである。

店の一画で利用者の相談に乗り 情報を提供する
ところで楠本さんが相談販売にこだわるのにはワケがある。「薬はきちんと理解して扱わなければいけない」と語る。
「サプリメントや病院の薬などいろんなものを使っていると、相互的な副作用に注意しなければいけません。たとえ風邪薬や鎮痛剤、あるいは乗り物酔いを予防する薬のように簡単に手に入る薬でも侮ってはいけない。だからどんなに単純な薬だとしてもきちんと話を訊かなければ安易には売れないし、できるだけ話を伺ったうえでお奨めしています。それでも悩んだときには、購入していただいたあとで連絡して薬を換えていただくこともある」
かように親身な姿勢を貫き、店を立ち上げて30年が経つ。しかし大型ドラッグストアの台頭に伴い、「クスリのシンワ」のような町の小さな小売店が減少しているのも実情である。実際、かつては楠本さんも一日に百人を超える利用者を相手にしていたが、大型店が軒並み増えた現在、客足はその当時と比べ半分に減っているという。
ただし、追い風もあるようだ。薬事法の改正により、店の形態を問わず薬を販売する側には利用者に対するより積極的なアドバイスが義務付けられるようになるという。すなわち、専門家でなければ店頭で薬を扱うことは不可能になるわけだ。

川崎市は宮前区有馬に構えて 30年が経つ薬の老舗だ
「薬屋はこれから変わります」楠本さんは目を輝かせる。
「残念ながら近年は薬も値段の争いになっていました。どの店で買うか、判断の基準は値段だった。でも考えてみれば、たとえば病院に通う際に値段で判断する方は皆無でしょう。同様に、これからは薬屋も勉強のたたかいになる。『あの店に行けば詳しく教えてくれる、安心して買える』というふうに利用者の方の基準が変わるのは我々の望むところ。薬種商が生きていくためには相談販売しかありませんからね。私もさらに勉強して、もっと多くの知識を持とうと思っています」
35年ちかく薬に携わるなかで、薬種商としての基本に立ち返ったという。「薬の勉強はかぎりがなくて面白い」と白い歯を見せる楠本さん自身、店を始めたころの原点を再確認し、やりがいを噛み締めながら利用者のさまざまな相談に乗っている。
取材・文◎隈元大吾
漢方薬相談店 クスリのシンワ
住所:〒216-0003 川崎市宮前区有馬3-28-20
電話番号:044-855-5695
営業時間:10:00〜20:00
定休日:木曜
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