<散策ノート>
蔵敷交番前交差点を始点とする坂

平瀬川に沿って敷かれた木道。
ベンチが1台ある
坂の始点である蔵敷交番前交差点。角に蔵敷交番、川崎菅生郵便局、JAセレサ川崎、そして「10周年記念花壇 蔵敷商店会」の札が添えられた花壇があります。花壇には色とりどりに咲き誇る花々。そのまわりでは住民の方がゴミ拾いをしています。
花壇のそばにあった「巴坂」の標識を眺めた後、すぐに出会ったのは平瀬川。草花に囲まれた流れのなかに4羽のカモを見つけ、目で追いながら上流へ向かいます。蔵敷交番前交差点へ至る通りを横断し、少し行くと、川沿いに散歩するのにぴったりの木道が敷かれてありました。

水辺までおりられる
階段が数ヶ所。水がきれい
平瀬川は護岸改修工事の際、地域の人々の要望によって「多自然型工法」を採用。川岸の一部に土が盛られ、季節の花や木でいっぱいの親水公園として整備されました。木道の両側には「八重紅枝垂」「渦桜」「八重匂」「関山」「一葉」など、さまざまな種類の桜も植えられていて、4月上旬から下旬にかけて多くの人々を喜ばせます。
親水橋を越えた先の両岸にはコスモス。ちょうど手入れをしていた近所の方が「コスモスを植え始めたのは10年くらい前から。春に種を蒔いて、9月中旬から10月下旬までが見頃になります。けっこう長く咲いているんですよ」。周辺には水が流れる音と虫の音が心地よく響いています。
終点は坂名にゆかりのある菅生神社

川の両側に咲き競う
コスモスは見事だろう
「この前の台風で増水した際に多摩川からのぼってきたんですよ。ほら、あそこ」と教えてもらって見たのは、なんと鮎。30匹ほどの黒い群れが流れに向かってヒレを懸命に動かし、時折、目にも止まらぬ速さで泳いで移動を繰り返しています。「なんとか生き残って産卵し、またこの川に戻ってくるといいなって、みんなで見守っているところです」。うん、平瀬川に毎年、鮎がさかのぼってくるようになったら、なんて素晴らしいことでしょう。
すっかり嬉しい気分になって戻り、再び巴坂へ。通りの向こう側にはコンビニ、雑木林・竹林、工場、飲食店、こちら側には1階に店舗が入ったマンション、一軒家などが並んでいます。カーブに沿って進んだ先には、緑のフェンスと防球ネットにすっぽり囲われたゴルフ練習場。その前を通り過ぎたら菅生神社が現れ、あっという間に巴坂の終点です。

菅生神社の例大祭では
大太鼓の巡行も見もの
菅生神社の参道を進んで階段を上ると、広い境内が迎えてくれます。本堂のそばに手水鉢が置かれ、「奉納」と彫られた文字と文字のあいだに巴坂の名前の由来となった「巴」の神紋。本堂の屋根のてっぺんにも巴の紋が3つ並んでいます。
天福元年(1233)、菅生神社は宮前区平にある白幡八幡大神の分霊として創建。明治43年(1910)に初山、犬蔵、長沢、稗原の鎮守と合祀され、菅生地域全体の鎮守となりました。10月第1土曜・日曜には例大祭が行われ、県指定無形民俗文化財の「初山の獅子舞」が奉納されます。
風景は変わっても残っているものがある

貸し竿、エサ付きで
じっくり挑める菅生釣堀園
「土曜の宵宮は境内の舞台で演芸大会が催されて盛大だよ。屋台もたくさん出るんだ」と、菅生神社の例大祭について話してくれたのは菅生釣堀園のご主人。「日曜の本宮は朝8時に神輿の宮出し。地域を一日かけてまわって、夕方17時に宮入りだよ。初山の獅子舞は10代の子が獅子頭をつけて躍る勇壮な舞。昔のものは伝承していかないとなくなるからね。残していきたいよね」。
菅生釣堀園は昭和45年(1970)に開園。ご主人は先祖代々この地に住んでいらっしゃるそうです。「低いところはみんな田んぼで、少し高いところは畑、傾斜のあるところは雑木林だったんだ。長沢地区には農家が17〜18軒建っていただけだったのに、今では700〜800世帯が住んでいるっていうから変わったもんだよね」。

長沢自治会会館。
新しい大山灯籠が立っている
「釣りはやっぱりむずかしいね」とは、魚を6〜7匹釣り上げていたお客さんの1人。「魚は人の気配を感じたらさっと逃げるし、どのへんをどう泳いでいるかわからないと釣れない。じっくり集中してやらないとね」。釣堀園の池を眺めながら、お客さんとご主人が楽しそうにおしゃべりを始めます。ゆったりとした空気が流れ、おだやかな雰囲気に包まれています。
長沢自治会会館で見つけたのは、「大山講」と彫られた石灯籠。その隣りには「文化八 辛未年」の文字が読める石仏(石尊様?)もあります。江戸時代、大山阿夫利神社へ参詣する大山講は庶民のなかで盛んになり、大山街道の要所要所には大山灯籠が立てられました。かつてここには大山への参詣者が行き来する風景もあったのかなと、その様子を頭の中でそっと思い描いてみたのでした。
07年9月に散歩しました。
文・写真・イラスト:森田奈央 川崎市在住のフリーライター。散歩が好きで、好奇心のおもむくままに日々歩きまわっている。著書に猫を追いかけて歩いた「ネコ路地へ行こう」(小学館文庫)。
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