地元暮らしをちょっぴり楽しくするようなオリジナル情報なら、川崎市宮前区の地域ポータルサイト「宮前ぽーたろう」!
文字サイズ文字を小さくする文字を大きくする

川崎市宮前区の地域ポータルサイト「宮前ぽーたろう」

坂道は続くよ、どこまでも

第16回「くぬぎ坂」の巻

宮前区は丘陵地帯に位置し、坂道が多いところ。区内には公募によって愛称が制定された坂道が18カ所あり(昔からの呼び名を持つ坂道も含む)、それらの坂には命名の由来を記した標識がそれぞれ設置されています。
地域の人々に親しまれ続けてきた18カ所の坂道を上って下りて、周辺を散策してみましょう。
昔から、このあたりの坂は「くぬぎ坂」の名で親しまれていました。
平成13年2月1日制定

坂道データ

Data-16

【名称】くぬぎ坂 くぬぎざか
【所在地】野川
【緯度経度】始点E139.36.51.5N35.34.0.9/終点E139.36.58.2N35.34.7.3
【アクセス】川崎市バス・東急バス野川郵便局前停留所から始点まで徒歩約10分
【長さ】約280m
【形状】坂の上に始点がある。やや緩い下りでスタートし、約10m付近で右へ少しカーブ。約85m付近から急な下りになり、左へ少しカーブ。約150m付近でなだらかになり、右へ大きくカーブした後、左折して広い道に合流。終点までやや急な下り。
【様子】乗用車1台がやっと通れるくらいの道幅。始点の周辺は駐車場で、その後はすぐに木々に囲まれる。途中、右手に数年前に建ったというマンションが続く。歩行者は多くなく、原付バイクがたまに通る。合流後の広い道には路面にすべり止めの○が付いている。
【休憩地】特になし。広い道との合流地点に飲料の自販機あり。上りは足を止めて休憩したくなる箇所あり。
【その他】近くを通る中原街道には川崎市バス・東急バス野川くぬぎ坂停留所がある。ほかにもくぬぎ坂の名がつくマンションが近隣にあり。
始点
始点
左手に雑木林が広がる
左手に雑木林が広がる
右手にマンションのフェンス
右手にマンションのフェンス
もうすぐ合流地点
もうすぐ合流地点
終点
終点

散策ノート

雑木林のなかを行く「くぬぎ坂」

雑木林のてっぺんから
芽吹きが始まっていた
雑木林のてっぺんから
芽吹きが始まっていた
「昔からの坂道でね、提灯をぶら下げて歩いたって話を聞いたことがあるわよ。そのころはキツネやタヌキが出ていたって」。
 野川くぬぎ坂停留所まで行き、バスに乗るという女性が教えてくれます。昔は坂の両側に雑木林が広がっていましたが、途中の片側にマンションが建てられたことで昼間は日差しが入るようになり、明るくなったそうです。
 「くぬぎ坂というからには、やっぱりクヌギの木があるんでしょうね。秋にドングリがよく落ちていますよ」。
 頭上高くそびえる木々を見上げると、枝の先のあたりがきらきらと輝いているように見えます。
鮮やかな黄緑色がまぶしい新芽を
あちこちで発見
鮮やかな黄緑色がまぶしい新芽を
あちこちで発見
「少しずつ芽吹いてきましたね」
というのは、買い物袋を下げたおばあちゃん。
 「以前は『山道』とも呼んでいたんですよ。それくらい鬱蒼としていた坂だったの。最近は暖冬で、木々の芽吹きが早くなったように感じますね。これから新緑がとてもきれいですよ」。
 夏は緑のトンネルになって涼しいのでよく通ると、おばあちゃん。
 「上るのはたいへんですけどね」。
 傾斜が急なところでは、下りは後ろに体重をかけて一歩一歩踏んばりながら進まないと、ととととと……と足の動きが止まらなくなってしまいそうです。
 逆に上りは踏み出す足が進むごとにどんどんどんどん重たくなります。2人の女子中学生が「足つりそう」と言いながら上っていきました。

興味をそそられる何か(!?)と歴史の跡

何かが通った跡!?
仕切り板にツメの跡が残されている!??
何かが通った跡!?
仕切り板にツメの跡が残されている!??
頭上で風がごうごうと鳴り、木々がさわさわと揺れます。
 「幹に縦の線が入っている木がクヌギだよ」
と、にこにこ笑顔の男性。
 「クヌギの幹にはカブトムシやクワガタが樹液を吸いにやってくるんだ。前は夏にたくさん見かけたけど、みんな獲られちゃったのか、近ごろはいなくなったね」。
 おもしろいものを見せてあげるよと男性が指差したのは、坂の脇の斜面。
 「これなんだかわかる? 何かが通った跡だよ」
 そう言われてみれば、笹の葉で覆われた斜面にくぼみが続いて道筋のようなものができており、何かが通った跡に見えます。
 「タヌキかキツネか……、もしかしたらネコやイヌかもしれないけどね(笑)」
 さーて、真相はいかがなものか、気になります。
団地や住宅などに囲まれている十三坊塚
団地や住宅などに囲まれている十三坊塚
始点から野川南台団地に向かい、一軒の商店の前で見つけたのは「格安自販機」。お茶やコーヒー、炭酸飲料などを「80円〜」で売っています。
 少し離れた場所のもう一軒の商店の前には、こんもりとした小山。前回の「坂道は続くよ、どこまでも 第15回「見晴らし坂」の巻」では、民俗信仰に基づいて尾根筋に5つの塚が築かれた「五所塚」を訪れましたが、この小山も「十三坊塚」と呼ばれる塚です。
 『宮前区ガイドブック』には、
 「『新編武蔵風土記稿』によると、昔ここには十三の塚があったという。現在では1つ残るだけになった」
と書いてあります。塚のまわりを歩いてみると、東側に1基の石塔が立てられていて、神聖な場所だということがわかりました。
 また、野川南台団地は縄文時代の「十三菩提遺跡」が発掘された場所。しかし、残念なことに主要な部分はもう残されていないそうです。
 どのような歴史がこの場所に存在していたのか、こちらも気になります。


09年3月に散歩しました。
●参考資料/宮前区ガイドブック(宮前区発行)ほか
宮前区ガイドブック(宮前区発行)の「宮前区全図」を参考に、坂道の標識が立っている場所を坂の始点、その反対側を終点としました。

文・写真・地図:森田奈央 川崎市在住のライター。散歩が好きで、好奇心のおもむくままに日々歩きまわっている。著書に猫を追いかけて散歩した「ネコ路地へ行こう」(小学館文庫)。