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坂道は続くよ、どこまでも

第10回「春待坂」の巻

宮前区は丘陵地帯に位置し、坂道が多いところ。区内には公募によって愛称が制定された坂道が18カ所あり(昔からの呼び名を持つ坂道も含む)、それらの坂には命名の由来を記した標識がそれぞれ設置されています。
地域の人々に親しまれ続けてきた18カ所の坂道を上って下りて、周辺を散策してみましょう。
<標識に記された坂名の由来>
この坂は西向きの斜面のため、桜の開花が遅いので、春を待つというイメージから愛称としました。
平成12年2月1日制定

坂道データ

Data-10

【名称】春待坂 はるまちざか
【所在地】鷺沼1丁目、鷺沼3丁目
【緯度経度】始点E139.34.21.6N35.34.28.6/終点E139.34.33.5N35.34.30.0
【アクセス】東急田園都市線鷺沼駅から始点まで徒歩6分
【長さ】約315m
【形状】始点より終点までやや緩やかな上りで、一直線。
【様子】両側に歩道がある幅広の2車線。歩道には桜(ソメイヨシノ)の並木が続き、マンションや商業ビルに挟まれている。車道にコインパーキングあり。歩行者多し。
【休憩地】とくになし。
【その他】鷺沼駅近く。さぎ沼中央通りにあり、スーパーやコンビニ、クリニック、美容室などが並ぶ。坂の途中に建つ有名料理店の前には大型観光バスが停車していることも。
始点<br>
始点
途中<br>
途中
終点<br>
終点
春待坂の坂上にある<br>鷺沼駅<br>
春待坂の坂上にある
鷺沼駅

散策ノート

桜並木のつぼみがもうすぐだよと“春待坂”

お弁当とシート持参の人々も多い<br>鷺沼公園<br>
お弁当とシート持参の人々も多い
鷺沼公園
鷺沼駅の改札を出ると、目の前にバスロータリー。頭上を仰げば、つぼみをたくさんつけた桜の枝。ロータリーに植えられた桜は、駅前のさぎ沼中央通りへ並木となって続き、そのまま春待坂を下っていきます。
 西向きの斜面にある春待坂。まして、両側に5~9階建ての建物がびっしりと連なり、午前中は日陰になっている部分が多いよう。桜のつぼみもロータリーのものより小さく、坂名の由来の「桜の開花が遅い……」を目にして思わずうんうんとうなづきます。
 桜並木は坂下の始点を通り越して、鷺沼小前交差点を横断。『宮前バスの旅 第3回 梶01 鷺沼駅-梶が谷駅の旅』で訪れた鷺沼公園の前を通過し、どこまでも続いていきます。
鷺沼第1公園には桜のほか、<br>立派な木々が多い<br>
鷺沼第1公園には桜のほか、
立派な木々が多い
「たまプラーザ駅前まで、桜並木はずーっと繋がっているんですよ」と教えてくれたのは、鷺沼第1公園にお孫さんといっしょに遊びに来ていた女性。「通りが桜色に染まって、とにかくすばらしい眺め。花が咲いたら歩いてみるといいですよ」。
 鷺沼第1公園にも大きな桜の古木。「このへんは桜が多いですね。毎年、楽しみにしています」。公園内にはちょっとした遊歩道があり、桜の下を散策することが可能。高台にあるため、桜の向こうに丘陵に広がる街並みも見渡せます。
 公園横の花壇に元気いっぱいに咲いている福寿草とすいせん。そのまわりには「春ラン」「黒百合」「矢車草」「多摩寒葵」などの札も立てられています。これらの山野草は看板に名前が書かれていた「鷺沼にんじんクラブ」の方々によって大切に育てられているのでしょう。

昔は大山街道、今は国道246号が通る地域

大山街道の面影を<br>感じさせるくねくね道<br>
大山街道の面影を
感じさせるくねくね道
くねくねとした急な坂を下っていきます。『宮前区ガイドブック』によると、この坂は途中に八幡社があったので、「八幡坂」と呼ばれていたとのこと。また、雨乞いや商売繁盛の神様として信仰されていた大山阿夫利神社への参詣道「大山街道」がここを通っていて、かつては馬の医者や蹄鉄を作る家、髪結い床、出店といった商家が並んでいたそうです。
 大山街道は江戸城の赤坂御門から出発。青山、三軒茶屋、多摩川を越えて溝の口、荏田、相模川を越えて厚木、伊勢原、秦野、矢倉沢、御殿場へと向かい、矢倉沢往還とも言われていました。東海道に対する脇街道として栄え、秦野のたばこや相模川の鮎をはじめ、さまざまな江戸への物資が馬の背にのせられて運ばれていったと言います。
八幡坂を下りきると、国道246号。右折した右手に2体の石仏が奉られたほこらを見つけます。再度『宮前区ガイドブック』を開き、ガイドマップで現在地を確認。「元禄年間(1688~1703)に疫病で亡くなった子どもの供養のために建立された阿弥陀仏と地蔵尊」と説明文を読みます。
 ほこらの四隅には何本も束ねて提げられている紐。これは何だろう? と気になりますが、ガイドブックにはそれについて触れられていません。だれかに聞いてみようとしても、通行しているのは車ばかりで、歩行者の姿が見られませんでした。

人々が行き来した大山街道を追いかけて桜の公園へ

運搬で役目を果たした<br>馬を供養した馬頭観音<br>
運搬で役目を果たした
馬を供養した馬頭観音
鷺沼2丁目交差点近くに馬頭観音。その隣に立つ石碑には「大山街道は明治30~40年代(1897~1912)に改修された県道1号線に使命をゆずり、旧道として残された」と記され、「第二次世界大戦後、県道1号線は拡幅、舗装されて国道246号になった」「昭和27年(1952)、東急電鉄の区画整備工事が始まり、旧道のほとんどは姿を消した」と続けられています。
 この馬頭観音は「右 王禅寺道」「左 大山道」と刻まれ、道しるべとしての役割も担っていました。もともとは「有馬さくら公園」付近にあった大山道と王禅寺道の分岐点に立てられていたもの。消えゆく旧道の石仏だけでも保存しようと、ここに移されたのです。
有馬さくら公園の鉄塔からの<br>送電線。迫力がある<br>
有馬さくら公園の鉄塔からの
送電線。迫力がある
大山街道の名残はほかにないものかと、有馬さくら公園へ。広いグラウンドでは子どもたちがサッカーをしています。片側の小高い丘の斜面は一面が桜の木。その間を縫うように階段が上方へ伸びています。
 丘のてっぺんで待っていてくれたのは、銀色に輝く鉄塔。南は視界が開け、遠くに横浜市営地下鉄センター北駅前の観覧車や横浜ランドマークタワー。背後の鉄塔から南東の鉄塔へ送電線が弧を描いて張られている眺めも壮大です。
 西に大山が見えることもあるそうですが、あ~ざんねん、空が霞んでいます。そう、もう春霞の季節。桜の開花が待ち遠しい季節だもんねと、桜のつぼみを眺めました。

08年3月に散歩しました。
●参考資料/宮前ガイドブック(宮前区発行)、大山街道(川崎市立多摩図書館)ほか
文・写真・イラスト:森田奈央 川崎市在住のフリーライター。散歩が好きで、好奇心のおもむくままに日々歩きまわっている。著書に猫を追いかけて歩いた「ネコ路地へ行こう」(小学館文庫)。