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かわさきマイスター活動レポート

かわさきマイスターから「自分の生き方」を学ぶ

吉田良雄さん(靴製造)、長沢小6年生140人を前に特別授業

提供:川崎市
「スケート靴の製造」について

織田選手や安藤選手らトップフィギュアスケターの靴を手がける

12月9日(水)の午前、川崎市麻生区東百合丘2丁目にある川崎市立長沢小学校で、かわさきマイスターの吉田良雄さん(靴製造)を外部講師に迎えて、6年生を対象にした「総合学習」の授業が行われました。吉田さんは2010年2月、カナダのバンクーバーで開催される第21回冬季五輪フィギュアスケート競技の日本代表選手に選ばれた織田信成選手や安藤美姫選手をはじめ、村主章枝選手や韓国のキム・ヨナ選手ら数多くのトップフィギュアスケート選手の専用靴など、年間2000足も製作しているスケート靴のプロフェッショナルです。吉田さんは大変多忙な中、「話を聞きたい」との子供たちからの依頼に、何とか時間を調整して駆けつけてくれました。
当日、授業が始まる午前10時50分、初めて聞くスケート靴造りの名人からどんな楽しい話が飛び出すか、期待に胸を膨らませて6年生140名が教室に集まりました。教壇には吉田さんが持ち込んだフィギュアスケート靴やブレード・エッジ、木型、型紙、牛革などの資材が並べられ、初めて見るスケート靴の実物や材料に早くも児童たちの目が輝き始めていました。

スケートの経験ないが、吉田さんの話に興味津々

吉田さんは開口一番、「この中でスケートをした人はいますか」と質問。残念ながら誰からも手が挙がりません。世間ではスケートブームと言われていますが、実際にスケート靴を履いて滑った経験のある人は限られているということでしょうか。でも、次に吉田さんから「スケートで一番大切なものは何だと思いますか」と問われると、児童たちは異口同音に「靴」と応えていました。テレビなどでフィギュアスケート競技大会などの映像を何度も見ているのか、スケートに対する関心は高く、このあと吉田さんの話に興味津々と聞き入っていました。

「私は新潟県長岡市に生まれ15歳の時上京。スポーツ靴主体のメーカーに勤め、スケート靴、ゴルフ靴、野球靴などを作って腕を磨きました。そこで18年ほど修行した後、1971年に独立して川崎に鶴川製靴所という工房を作りました」と吉田さんが生い立ちを語り出すと、「えぇー、自分たちよりもたった2歳上くらいの時に、もう仕事を始めていたの…」と一瞬、驚きのささやき声が児童たちの間に流れました。
スケート靴を作る革の紹介
スケート靴を作る革の紹介
スケートの基本などを一通り説明した後、吉田さんは靴を作る際の最初の仕事となる「足を測る」作業を実演しました。児童の一人を教壇に上に呼んで実際に足を測り、図面を描いて靴作りの基礎を説明。「足は自分の顔をしているよ」という名人の言葉に、児童たちは一様に「えぇ~?!」という表情を現していました。
生徒の足を測定する吉田さん
生徒の足を測定する吉田さん
生徒にも靴の材料を見てもらいました
生徒にも靴の材料を見てもらいました

児童たちから次々と活発な質問

吉田さんは見習いの頃の苦労話や初めて給料をもらって嬉しかったことなど、一人前の職人になるまでの思い出話を次々と披露。そして児童たちからたくさんの質問を受けました。
「吉田さんにとって靴作りとはなんですか」
「吉田さんが作った靴を履いた選手が滑っている時、どんなことを考えていますか」
「自分で作った靴で滑ったことはありますか」
「自分の仕事に満足していますか」
「目標にしている人は」などなど、あちこちから元気な質問が飛んできました。
これに対し吉田さんは
「怪我をしないように、転ばないようにといつも思っています」
「仕事はやればやるほど難しくなってきます。まだまだ自分の仕事に満足していない」
「目標にしているのは自分自身」
「自分の靴が売れると嬉しい」
「今考えているのは、ジャンプして着地した時に転ばないで踏ん張れる靴を作ること」などと答えていました。

後継者問題にも大きな関心示す児童たち

こんな質問も飛び出しました。
「吉田さんは、自分の技術を継いでもらいたいですか」
「ええ、そう思っています。いま息子が手伝ってくれています」という吉田さんの答えに、児童たちの口からいっせいに「おぉ~」という歓声があがりました。ものづくりの伝統が薄れる中、名人といわれる技能者の後継者問題について子どもたちもそれなりに大きな関心を持っていたようです。

吉田さんは子ども頃からものを作ることが大好きで、学校で工作の時間が楽しかったといいます。そして絵を描くことにも大変興味があったと話していました。そんな子どもの頃の好きなことが今の仕事に役立っていると、児童たちに向かって「いま皆さんが好きにやっていることが、やがて将来の職業に役立つことになるんだよ」と話していました。

ものづくりの原点をやさしく説明

また「靴作りで一番大変だったことは何ですか」という質問に、吉田さんは「昔は親方や先輩を見習って長い時間をかけ自分で自然に技術を覚えていきましたが、いまは靴造りの学校があり、そこでいっぺんに学んでしまいます。しかし、これでは手に技術が付きません。ものを作るには若いときからコツコツと腕を磨き上げることが大切です」とものづくりの原点を子どもたちにやさしく説いていました。

マイスターってどんな人なの?

ところで、児童たちにとっては初めて聞く「マイスター」という言葉。吉田さんの話が始まる前に川崎市役所の担当者が「マイスターとはもともとドイツ語で、手や道具などを思うままに使いこなして見事にものを作り上げる非常に優れた技術や技能を持っている人、日本では昔は親方とも呼ばれていた腕の立つ職人さんのことをいいます。かわさきマイスターの方々はプロの職人の中でも超一流の職人です。」と分かりやすく解説すると、子どもたちもよく理解できたようです。そして、人口約140万人の川崎市に現在、市が認定した「かわさきマイスター」と呼ばれる人たちが57人もいると聞いて「へぇ、川崎にはものづくりの名人がそんなにいるの」と皆んなびっくりしていました。

「目標にしているのは自分自身」という吉田さんの言葉に感動

授業が終わって各クラスの代表から次のような感想が述べられました。
「自分を目標にするという言葉に驚きました。将来、自分がなんになっても自分を目標にしたいと思います」
「頑張ることが大切だということがよく分かりました」
「私たちが今やっていることが将来の仕事につながると聞いて、一生懸命やることが大事だなと思いました」
そして最後に児童たちは吉田さんに向かって大きな声で「今日はありがとうございました」と感謝の気持ちを述べ、全員で大きな拍手を送っていました。

吉田さんは授業を終えて「大勢の前で話すのは初めてで大変緊張しましたが、皆さん私の話に乗って一生懸命聞いてくれて嬉しかったです。子どもたちの反応を強く感じました」と語っていました。

「自分の生き方を見つける」総合学習の目的果たす

長沢小学校は川崎市の「総合学習」推進校に指定され、学年別にそれぞれ総合学習の課題を決めていますが6年生には「自分の生き方を見つける」をテーマに選んでいるということです。常木初野校長は「かわさきマイスターと呼ばれるようなすごい人の生き様を見て、自分はどう生きるのか―自分の人生、将来を考えること、自分を見つめる学習を小学生から始めることは、将来の職業選択を考えるキャリア教育にもつながります。覚える授業ではなく、自分で考えることを狙いに今回の特別授業を計画しました」と語っています。

また、今回の総合学習を担当した鈴木優子先生は「これまで6年生の各クラスで職業についていろいろ考えてきました。子どもたちにとってスポーツ選手は憧れの的です。でも誰でもなれるものではありませんし、実際にプロの選手に来ていただいてお話を聞くことも難しい。もっと身近なところにスポーツに関わる職業の人はいないだろうか、用具を作る人はどうだろうか、と考えていってたどり着いたのが一流選手のスケート靴をたくさん作っておられるかわさきマイスターの吉田さんでした」
そして鈴木先生は「いつも自分を目標にしているという吉田さんの言葉に、子どもたちは常に努力が大切だという意味を感じ取ったのではないでしょうか。現状に満足せず、さらに上を目指して頑張り続ける価値を学んだと思います。そして子どもの頃、工作や絵を描くのが好きだったという吉田さんの趣味が今の仕事にもつながっているというお話で、自分たちが今好きでやっていることも将来につながる大事な体験なんだということが理解できたのでは」と話していました。

将来の職業選択へ児童たちの夢は膨らむ

自分を考える「総合学習」の一貫として実現したかわさきマイスターの特別授業。スケート靴作りの話を通してものづくりの原点に触れた吉田さんの話は、子どもたちの胸の中にものを作ることの大切さを深く刻み付けたようです。そして吉田さんの貴重な体験談が子どもたちに大きな感動と将来の職業選択へ膨らむ夢を与えたことは間違いありません。