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かわさきマイスター活動レポート

平成22年 高津区民祭レポート

モノづくりに携わる匠の技を知るいいチャンスに!

提供:川崎市

「かわさきマイスター」が出展

4人の匠が出展した「かわさきマイスター」のブース。
4人の匠が出展した「かわさきマイスター」のブース。
7月25日(日)、川崎市高津区で、夏の恒例行事となった高津区民祭が開催されました。開催場所は、川崎市高津スポーツセンターをはじめ、同区内22カ所でさまざまな催し・企画展などが行われました。同祭は今年で37回目を数えます。
猛暑にもかかわらず会場は朝から来場者で大賑わいでした。
猛暑にもかかわらず会場は朝から来場者で大賑わいでした。
会場の1つとなった高津図書館入り口・溝口緑地では、館内で展示会「思い出の二ケ領用水」が催されたほか、同図書館前の緑地広場にはテント張りのブースが並び、たくさんの行事が開催されました。その1つに、川崎市が平成9年から推進する「かわさきマイスター」による実演・即売ブースがあり、同日参加した4人のマイスターが優れた技術・技能を披露しました。

会場近くの路地で、真夏の今を盛りと咲き誇るサルスベリの花。
会場近くの路地で、真夏の今を盛りと咲き誇るサルスベリの花。
川崎市では、極めて優れた技術を持つモノづくりの熟練技能者を「かわさきマイスター」として認定・表彰し、その技能の伝承を図る目的でさまざまな振興活動を行っています。今回の高津区民祭でも、これまでにマイスターとして認定された、各界の4名の熟練技能者が自らの手による製品を持ち寄り、来場された市民の方々にモノづくりと技術の楽しさに触れてもらうため、広く紹介されました。この日は快晴で30度を超す猛暑でしたが、会場には朝から大勢の市民が訪れ賑わっていました。

作品・製品を展示された4名のマイスターは以下の方々でした。
石渡弘信さん(平成9年度認定・手描き友禅)
鍵屋清作さん(同12年度認定・金属ヘラ絞り)
浅水屋甫さん(同16年度認定・広告看板製作)
流石栄基さん(同17年度認定・印刷技能士)

当日出展した4名のマイスターの話

浅水屋甫さん(広告看板製作)  ●手書き表札を実演販売

表札を手書きする浅水屋さんの達筆に見入るお客さん。
表札を手書きする浅水屋さんの達筆に見入るお客さん。
浅水屋甫さんは、デジタル制作が主流となった現代で、昔ながらの味わい深い手書きの看板・広告制作の技法を極めた技能者です。「文字が生きている感じは、手書きでしかなかなか出せないです」と、デジタル制作では表現が難しい、流れるようでいて、しかも絶妙にバランスのとれた文字配置を技と勘で実現しています。
うちわに涼しげな絵を描く浅水屋さん。来場者に無料サービスで進呈。
うちわに涼しげな絵を描く浅水屋さん。来場者に無料サービスで進呈。
今回のイベントでは、手書きによる表札の実演販売のほか、白いうちわを数枚用意して来場者の注文通りに文字や絵を描く限定無料サービスを初めて加えました。待ち時間中、浅水屋さんはその1枚に涼しげな風景を描いていました。猛暑にうだる会場にさわやかな涼を呼び込んでいるようでした。木製手書き表札は1枚1,500円という格安値段。材料はヒノキの香りがする北米産ヒバの白木板です。木目が非常になめらかで、美しく耐久性にも優れています。書き上がるまで熱心に浅水屋さんの手元を見つめる注文客の一人は、その達筆ぶりに驚いているようでした。

浅水屋さんの専門は広告看板製作ですが、こうした手書き表札のほか、お寿司屋さんのメニューや石油タンク、煙突、歩道橋、JRの橋梁などに手書きの文字を製作しています。この時期、各地で催される夏祭りの看板書きで忙しいということです。また近々、学校のプールのコース番号書きとか工場の大きな文字書きの仕事もあるそうで、休む暇がないほどです。

石渡弘信さん(手描友禅)  ●子どもたちに型友禅の魅力を伝える

石渡さんのブースは開場と同時に子どもたちが並んで順番を待つという人気でした。
石渡さんのブースは開場と同時に子どもたちが並んで順番を待つという人気でした。
石渡弘信さんは手描き友禅の職人として、日本画のよき伝統をいまに伝える職人です。「かわさきマイスター」がスタートした第1回(平成9年)目の認定者で、経済産業省の認定伝統工芸士でもあります。「モノが溢れる現代、何でも手に入る一方で、自分でモノを作ってみたいという人が増えています。人間の手で作った本物の温もりを求めているのでしょう」と語る石渡さんは、手づくり伝統工芸を大切に守り後継者育成や、学校での実演指導などに力を入れています。この日は型紙を使ってポストカードに様々な絵柄を写し取る型友禅を披露しました。

型友禅は写し友禅とも呼ばれ、友禅模様を型彫りした型紙を下絵の代わりに用いて、使う色ごとに型紙を用意して絵柄を付けていく友禅染めの技法の一つです。手描き友禅と比べて短時間で簡単に友禅染めの魅力が味わえる良さがあります。これまでこうした催しで石渡さんは、いつもはハンカチを用いて手描き友禅染めを実演していますが、今回は子どもたちも友禅染めを手軽に楽しめるようにと初めて、ポストカードに型染めするステンシル技法を採り入れた型友禅を指導することにしたそうです。

子どもたち一人ひとりに、やさしく教える石渡さん。
子どもたち一人ひとりに、やさしく教える石渡さん。
鮮やかな友禅模様が描かれたセンスなどの作品も展示されていました。
鮮やかな友禅模様が描かれたセンスなどの作品も展示されていました。
「ほら、きれいに塗り上がったでしょう」と型紙をあげて
「ほら、きれいに塗り上がったでしょう」と型紙をあげて"作者"の女児に説明する石渡さん。
順番を待って次から次へと好みの型紙を選んでポストカードに色付けしていく子どもたち一人ひとりに、石渡さんは「自分の好きな色を選んで」「絵の具にあまり水は付けないで」「ここはこっちの型紙がいいかな」などとやさしく指導していました。石渡さんは手描き友禅を教えている教室でも、常に自由な発想で描くことを生徒たちに伝えているそうです。
「昨晩は、きょうのためにたくさんの型紙を彫って用意するのが大変でした」と語る石渡さん、その苦労は嬉々として色付けに挑戦する子どもたちにきっと伝わったことでしょう。


鍵屋清作さん(金属ヘラ絞り)  ●ヘラ絞りのステンレス製マグカップでビールをどうぞ!

金属ヘラ絞り加工によって製作された手づくり作品を展示する鍵屋さん。
金属ヘラ絞り加工によって製作された手づくり作品を展示する鍵屋さん。
ヘラ絞りとはステンレス、アルミなど円盤形の金属を回転させる機械にかけて、金属製のヘラ棒と呼ばれる工具を押し当てて円錐や球形に近い形に成型する技術です。鍵屋清作さんはその卓越した技能を有していることで、平成12年にマイスターに認定されました。大きな製品では大型パラボラアンテナやロケットの先端部分など、また小さなものならシャープペンシルの先にある芯を送り出す数ミリ単位の微細な部品などまで、いずれも丸いカーブを特徴とする様々なバリエーションの製品を作るのにこの技術が応用されています。
左下が花立て、右上はビール用マグカップ。いずれもステンレス製。ヘラ絞り独特の曲線が鮮やかです。
左下が花立て、右上はビール用マグカップ。いずれもステンレス製。ヘラ絞り独特の曲線が鮮やかです。
この日は金属ヘラ加工で製作された大・中・小のビール用ステンレス製マグカップとおつまみ用ステンレス皿、それに美しい流線を醸し出すステンレス製花立てを出品しました。金属ヘラ絞りの製作工程は一般にはなじみが薄く、こうした身近な製品を展示・販売することで一人でも多くの人に金属ヘラ加工技術の素晴しさを知ってもらいたいというのが鍵屋さんの思いです。ステンレスという金属は硬くて加工がしにくいそうですが、「ヘラ絞り技法を応用して、どんな製品を工夫して仕上げるか、いつも考えながらモノを作るのが楽しいです」と、にこやかに話していました。

この道50年の鍵屋さんは、製作現場はもちろん、それ以外の場所でも技術・技能の伝承に心血を注いでいます。ただ、伝統技法であるヘラ絞りの後継者が育つまで5~10年はかかるということで、技能の継承はなかなか難しい点もあるということです。またもう一つ、鍵屋さんの最近の悩みは、こうした伝統技術で生まれる製品の世界にも中国製品が増えてきているということです。何とか独自の技術を守りたいというのが鍵屋さんの切実な願いです。



流石栄基さん(印刷技能士)  ●高精度な印刷技法を紹介

カラー印刷技術の奥深さを伝える流石さん。
カラー印刷技術の奥深さを伝える流石さん。
カラー印刷の世界で、思い通りの色をポスター・写真集などで表現するには高度な技術と長年の経験が必要です。流石栄基さんは、その分野を極めたスペシャリストです。これまで第一線で活躍する画家やアーティストの作品を数多くこなしてきましたが、そうしたプロの色へのこだわりは並大抵のものではなく、それに応える流石さんの技量は高く評価されています。仕事や暮らしで今や印刷物は欠かせない存在です。しかし、裏方であるその技術・技法については意外と知られていません。流石さんはこうしたイベントを通じ、印刷とはどういうものかを分かりやすくアピールしていきたいと語っていました。

今回はFMスクリーニング印刷による見事なカラー写真パネルの展示・販売と印刷技術の説明を行いました。FMスクリーニングは、製版の際に従来の印刷方式に比べ4倍近い1インチ四方約650個という高細線の網点を使用するため、網点が互いに干渉し合うモアレという現象を起こしにくく、きめ細かく色域が広がり色調の鮮やかさを増すという印刷方式です。

 
印刷用の版材「PS版」を利用した写真パネルと、FMスクリーニング印刷によるカラー写真など。
印刷用の版材「PS版」を利用した写真パネルと、FMスクリーニング印刷によるカラー写真など。
この日ユニークだったのは印刷用の版材「PS版」を利用した写真パネルの試作品展示でした。PS版というのは平版印刷に使うアルミ製の刷版で、印刷用の版下(原版)が焼き付けられています。PS版は印刷が終われば普通は廃材として回収されますが、流石さんの会社(日本プロセス)では、これを鑑賞用写真パネルに応用しました。銅版のように処理されたセピア色の微細なエッチングが不思議な世界を作り出しています。新しい写真飾りとして面白そうです。