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かわさきマイスター活動レポート

小学生120人がものづくり体験

マイスター3人が市立長沢小学校へ

提供:川崎市
左から田中司好(たなかしこう)さん、仲亀誠市(なかがめせいいち)さん、浅水屋甫(あさみずやはじめ)さん
左から田中司好(たなかしこう)さん、仲亀誠市(なかがめせいいち)さん、浅水屋甫(あさみずやはじめ)さん
川崎市立長沢小学校の6年生の総合の授業に招かれ、11月12日(金)、浅水屋甫さん(広告看板製作)、田中司好さん(食品サンプル)、仲亀誠市さん(洋菓子士)の3人のかわさきマイスターが「ものづくり体験教室」を行いました。同校におけるかわさきマイスターの体験教室は昨年に続いて2度目で、3人のマイスターが同時に招かれたのは初めてです。全3クラスの子供たちは約40人ずつ、希望の教室に分かれ、マイスターと一緒にものづくりの楽しさを経験しました。

大平眞史校長は3人のかわさきマイスターに、「小学生のうちに、身近ですてきな生き方をしている人と出会うことが、夢を持つ第一歩です。今日はみなさんをお招きして、3つの出会いを設定させていただきました。子供たちにぜひ、有意義な時間を過ごしてほしいし、マイスターのみなさんにも心に残る時間になってほしいです」とあいさつしました。
3人のマイスターは
◆浅水屋 甫さん(広告看板製作) 平成16年度認定
浅水屋さんのより詳しいレポートはこちら

◆田中 司好さん(食品サンプル) 平成21年度認定
有限会社 つかさサンプル代表  http://www.tsukasa-sample.com/

◆仲亀 誠市さん(洋菓子士) 平成20年度認定
コンディトライなかがめ経営  http://www.nakagame.net/

浅水屋 甫さん(広告看板製作)

全身を使って文字を描く浅水屋さん。
全身を使って文字を描く浅水屋さん。
看板製作の世界もコンピュータが主流になりましたが、浅水屋さんはあえて手描きにこだわり、あらゆる書体や絵を筆一本で描くことができる、この道60年のマイスターです。小さい看板から、石油タンクの壁面、歩道橋、電車の鉄橋など、文字の大きさや描く場所を選ばない、熟練の技術を持っています。

看板職人に会うのも、その仕事を見るのも初めて、という生徒ばかり。授業が始まるとまず、浅水屋さんは子供たちから寄せられたたくさんの質問に答えて、職人の仕事や自分の経歴について説明しました。

教えて、浅水屋さん

○なぜ、看板作りを始めたの?
中学3年の時に、細かいことが好きで、看板屋を選びました。最初は、仙台の看板屋で住み込みで働きました。住み込みというのは、食べさせてもらいながら、仕事を教えてもらうということで、給料は出ません。師匠が描いている手の動きを、はしごを押さえながら、見て覚えました。初めてある会社の看板を描くことを任されたのは、16歳の時です。だんだん仕事を覚えて成長した頃、先輩に呼ばれて憧れの東京に来て、また看板の仕事に就きました。田舎だと仕事が限られていますが、都会はいろいろな仕事があるので、勉強になりました。それから経験を積むうちに、お客さんに信用されてたくさんの仕事を任されるようになり、今があります。

○今までに大変だったことは?
住み込みで働いていた時、仕事を覚えさせてもらうために、一番早起きして、掃除や洗濯、先輩の子供の子守り、畑仕事なんかをしなくちゃならなかったことだね。当時は食べ物がなかったから、お腹が空くのも辛かったな。(ちなみに、浅水屋さんは今でも、朝の掃除を欠かしません。)

○やりがいは?
やった仕事が、「上手だね」とほめられることが一番楽しいです。

○なぜ、この仕事を続けているの?
好きだから。辞めようと思ったことはなかったです。人からほめられてどんどんお客さんがついて、自然に本業になってしまいました。「好きこそ物の上手なれ」で、好きなことを一生懸命やっていると、成功してものになってきます。

どんな書体も自由自在!

描く前に漢字から書体をイメージします。
描く前に漢字から書体をイメージします。
次はいよいよ、実演です。6班それぞれに好きな漢字を決めてもらい、漢字からイメージした書体で、その文字を大きな紙に描いていきます。子供たちが選んだ漢字は、「龍」「夢」「甫」「匠」「魂」「仙」。定規などの道具を一切使わず、浅水屋さんが筆だけで太い線、細い線を真っすぐに描いていく様子を、子供たちは固唾をのんで見守っていました。中には、教壇の前までやってきて、身を乗り出すように見ているグループも。一文字5分もかからずに描き終えると、その度に大きな拍手が起こっていました。
定規を使わずに描く真っすぐな線に、子供たちの口から「すごい!」と歓声が上がりました。
定規を使わずに描く真っすぐな線に、子供たちの口から「すごい!」と歓声が上がりました。
看板文字には、書き順がありません。文字の見栄えがいいように手を加え、形を整えながら描いていきます。描き終えると、いったん文字から離れてバランスを確認し、必要に応じて手直しします。最後に「曲がっているかな?」と線を修正する浅水屋さんを見て、先生が「みんなわかる?」と問いかけると、子供たちは「わからない!」と首を振りました。匠にしかわからない、微妙なバランスにこだわります。
浅水屋さんが文字を描いている最中、娘さんで二代目の美枝さんが説明を担当しました。「甫さんはいろいろな書物の文字を見ただけで、書体を覚えてしまいます。頭の中に書体が入っているので、細長い字でも平べったい字でもすぐに描けるんです」「真っすぐな線を描くためには、文字の大きさに関係なく、体で描きます。腕だけで描くと、軸が決まっているので、曲がってしまいます」
浅水屋さんの後ろに並んで塗料が乾くのを待つ生徒たち。
浅水屋さんの後ろに並んで塗料が乾くのを待つ生徒たち。
描き終わった文字は、ドライヤーで乾かして、各班にプレゼントされました。子供たちは、立派な文字を前に大喜びです。
大きな「夢」をもらいました! 書体は楷書体。
大きな「夢」をもらいました! 書体は楷書体。
勘亭流の立派な「匠」の文字。
勘亭流の立派な「匠」の文字。

調色もほら、この通り

次に浅水屋さんが見せてくれたのは、調色でグラデーションを作る技術。まずは色と色を組み合わせ、同系色で違う色を作ります。それから、匠ならではの微妙なさじ加減で、同じ色を薄い色から濃い色へと変化させてグラデーションを表現します。絵を描く機会が多い子供たちにとって、色の世界は身近に感じられるようで、次々と生み出される色を、夢中になって眺めていました。
同じ青でもこんなに違います。
同じ青でもこんなに違います。
原色の塗料で調色していきます。
原色の塗料で調色していきます。
浅水屋さんはこれまでの仕事や作業風景の写真をまとめたアルバムを持ってきて、子供たちに見せてくれました。子供たちは、煙突やガスタンクなど、思いもよらなかった場所に描かれた文字や作業風景に、「すごいなあ」「怖くないのかな?」と口々に感想を漏らしていました。女の子たちは「かっこいい!」と声を上げ、マイスターに憧れを抱いた様子です。
夢中になってアルバムをめくる生徒たち。
夢中になってアルバムをめくる生徒たち。
地上数十メートルで作業をする様子に、「すごいなあ」と歓声が。
地上数十メートルで作業をする様子に、「すごいなあ」と歓声が。
授業を終えた浅水屋さんから生徒たちへ、「みなさんも好きなことがあったら、一生懸命やってください。そしたら、必ず成功します」との言葉が送られました。浅水屋さんも代表の生徒から、「字に浅水屋さんの気持ちが込もっていると感じました」とお礼を言われ、にっこり。

わたしたちが感じたこと

○松澤藍夏(ゆうか)さん…「龍」を角ゴシックで描いてもらった班
字がガムテープを貼ったみたいにぴっちりしていてすごい。こういう字を書くところを初めて見たし、いろんな書体があることを今日初めて教わりました。この教室を選んだのは、かわさきマイスターの紹介文の「筆一本であらゆるところに文字を書いてしまう」という箇所が気になったから。これから町で看板を見かけたら、字をよく観察してみたいです。

○宮崎由奈さん …「匠」を勘亭流で描いてもらった班
看板はお客さんを引き付けるものなので、どうやって書くのかなと興味がありました。浅水屋さんは字を描く時、迷いがないのがすごい。文字によって書体を変えたり、書体を覚えていることがプロだと思います。これから、字がきれいに書けそう。

○上谷草太くん …「魂」を江戸文字で描いてもらった班
かっこいいから「魂」を描いてもらったけど、細かいところまでよく描けているので驚きました。普通の人にはできないと思う。僕は算数が好きだけど、浅水屋さんが言う通り、「好きこそ物の上手なれ」だと思います。

○古茂田望実さん…終了後も残って、作品アルバムを熱心に見ていました。
第一希望ではなかったけれど、授業がすごくおもしろかったので、将来、やってみてもいいかなと思いました。1回でいいから、どこかへ看板文字を書いてみたい。

浅水屋さんのお話

看板屋の仕事がどんなものなのかを知ってほしい、という気持ちでしたが、子供たちはおもしろいものだとわかってくれたようです。看板文字を描くところを初めて見た子供ばかりだったので、感動したのでは。調色についても、納得してくれた様子。子供たちが喜んでくれて、うれしいです。
小学生向けの体験教室は初めてで、授業前に「ぶつけ本番だから、楽しみです」と話していた浅水屋さん。授業後、次々に拍手を求める子供たちがやってきた様子を見ると、浅水屋さんにとっても、子供たちにとっても、思い出深い体験教室になったのではないでしょうか。