地元暮らしをちょっぴり楽しくするようなオリジナル情報なら、川崎市宮前区の地域ポータルサイト「宮前ぽーたろう」!
文字サイズ文字を小さくする文字を大きくする

川崎市宮前区の地域ポータルサイト「宮前ぽーたろう」

かわさきマイスター活動レポート

2009てくのかわさき技能フェスティバル

19人の「かわさきマイスター」が匠の技を披露

流石栄基(さすが えいき)マイスター 印刷技能士

絵画やイラストなどの印刷には原画を忠実に再現する技術が要求されます。流石栄基さんはそのカラー分解技術における第一人者です。長年にわたり世界的なアーティストの作品を手がけ、雑誌『ぴあ』の表紙イラストでおなじみの及川正通氏など多くのアーティストから信頼を寄せられています。イラストなど紙の表面に凹凸のあるものの色を印刷で再現する際には黄、赤、藍、黒4版の網点の面積比率の大小の組み合わせで色を変化させていきますが、原画を忠実に再現したり、アーティストのイメージする色を出したりするには経験と感性による高度な技が必要とされるのです。
世界的作品の再現に携わってきた流石さん。その高度な技術により多くのアーティストから信頼を寄せられています。
世界的作品の再現に携わってきた流石さん。その高度な技術により多くのアーティストから信頼を寄せられています。
色の再現は基本的にはコンピュータでしますが、原画を忠実に再現するためのさじ加減には経験則が必要になってきます。そのためレタッチといわれる筆による部分調整もしていきます。「コンピュータが年々高度化していくので、あるレベルまではいきますが、そこから踏み出すためには絵心を養うなどの素養を身につけないと。それとデータ人間にはならないこと。」というのが、これからカラー管理技術を学ぶ人への流石さんからのアドバイスです。

石井一夫(いしい かずお)マイスター 刃物研ぎ・鋸目立て

石井一夫さんはもともと鋸の切刃をよくする「目立て」が専門。切れなくなったら刃を交換する替え刃式の鋸が主流とはいえ、年配の大工さんなど昔ながらのものにこだわる人の需要に応えながら、同時に、家庭用から各種専門の技能者が使う刃物の研ぎにも熟練した技能を発揮しています。この日ははさみや包丁などの研ぎ方を実演してくれました。はさみでもその種類によって研ぎ方がちがうということです。たとえば、布鋏はあまりつるつるに研ぐと布がすべって逃げてしまいます。逆に髪の毛用のものは仕上げをかけてつるつるにします。特にノミやカンナの刃、彫刻刀などは研げば研ぐほど切れ味が増すとのこと。ただし石井さんは床屋さんで使う梳きばさみなど自分に「理屈がわからない」ものは研がないといいます。その姿勢には職人の矜持が感じられます。
はさみの種類によって研ぎ方のちがいを説明する石井さん。
はさみの種類によって研ぎ方のちがいを説明する石井さん。
包丁の研ぎ方についてアドバイスしてもらいました。包丁は砥石に刃を5ミリほど当てるように寝かせて、ある程度、薄く研ぐのがこつ。2~3ミリの角度では急刃になってしまい包丁がスーッと入っていかないそうです。石井さんも力のあまりない高齢の人に包丁の研ぎを頼まれたときは、とにかく薄く研ぐようにこころがけているとのことです。

浅水屋甫(あさみずや はじめ)マイスター  広告看板製作

浅水屋甫さんは賞筆1本であらゆる文字を描いていく広告看板製作の熟練者で、国土交通大臣賞も受賞しました。細かい文字までもがデジタルで描くことができる時代ですが、表札をはじめ車体の広告文字など、さまざまなもので手描きの味を好む人も多いといいます。とくにお寿司屋さんや蕎麦屋さんなどのメニューは温か味が感じられる手描き文字のほうが好まれるとのことです。
デジタル主流の時代でも、浅水屋さんの手描き文字の温か味を好む人は多くいます。
デジタル主流の時代でも、浅水屋さんの手描き文字の温か味を好む人は多くいます。
今はほとんど需要がないそうですが、お風呂屋さんの煙突文字や石油タンクのマーク、倉庫の壁面文字など、大きすぎてコンピュータが使えないものへの手描きも浅水屋さんの得意とするところです。高い場所での作業は風の強い日はペンキが飛びちったりして苦労をともなう作業ですが、達成感には格別のものがあるといいます。巨大なものを描く場合は、縮小した紙に碁盤の目状の枠をとり、その上にあらかじめ描く文字を描いた設計図のようなものを作り、現場ではそれと同じように原寸で描いていきます。実際に3メートルの文字なら、地上で、たとえば30センチに縮小した文字を枠上に描いておくわけです。以前、丸い石油タンクに10×20メートルの巨大マークを描いたこともあるという浅水屋さんの手にかかれば、どのような困難な仕事でもまったくずれることなく仕上げることができます。

三上峰緒(みかみ みねお)マイスター 美容師

三上さん自らがむすび方を教えます。三上作品に魅了された女性のみなさんが、熱心に指導を受けていました。
三上さん自らがむすび方を教えます。三上作品に魅了された女性のみなさんが、熱心に指導を受けていました。
美容師界の第一人者の三上峰緒さんが、小笠原流礼法の包みむすびで使われている水引や飾り組みひもを使って創案したヘアースタイルは、「夢のある編みこみ」と呼ばれ、日本だけでなく中国をはじめとする海外でも知られています。この日も、一見、現代的なアフリカ風編みこみと日本伝統の意匠が見事にマッチした作品が展示され、若い女性をはじめ訪れた人の目を奪っていました。三上作品に魅了された女性たちが、三上さんが教えるむすび方の基本に、自らもまねしながら熱心に指導を受けている姿が印象的でした。

小林誠一(こばやし せいいち)マイスター 調理師

小林誠一さんは横浜市内にあるホテルの総料理長として活躍する超一流シェフです。この日は特製ビーフカレーの実演と販売をおこないました。めったに食べられないカレーとあってすぐに完売御礼に。カレーには通常、小麦粉を使いますが、小林さんは和菓子や蒸し菓子の材料の上新粉でカレーに濃度をつけます。小麦粉の出す“ねばり”がなくなり、少しさらっとした感じの仕上がりになるそうです。家庭でカレーを作る場合のポイントをおたずねすると、「出汁をいかにうまく取るかがポイント」とのアドバイスをいただきました。カレーを煮込む前のベースの出汁がしっかりとれていると、あとはどんな方法をとっても、おいしくできあがるそうです。すりおろしたリンゴなどの果物やニンジンなどを仕上げに入れると甘味がでてとてもおいしく作れるとも。元来、小林さんご自身もシチューなど煮込み料理を作るのが好きだそうです。
「料理は応用」だという小林さん。この日販売したビーフカレーもすぐに完売御礼に。
「料理は応用」だという小林さん。この日販売したビーフカレーもすぐに完売御礼に。
料理の種類はおおまかにスープ、ソース、魚、肉に分けられます。調理法も焼くか煮るかあるいは蒸すくらい。だから「料理は応用」だと小林さんはいいます。そのためには基本をしっかりマスターすることだとも。たとえば、ソースの味をうまくだすにはどうしたらいいか、野菜の甘みをだすにはどう炒めたらいいか、塩やこしょうを焼く前の肉にふりかけたとき、どのくらい時間をおいたらそれがしみこむのかなどの基本的なことを覚えることが大事ということです。

大橋明夫(おおはし あきお)マイスター プレス順送 金型設計製作

プレス順送は最も生産性の良い加工方法といわれていますが、大変複雑な構造の型になるため熟練された金型設計技術が必要とされます。大橋さんはその金型設計から加工まで一貫して行うことのできる卓越した技術をもっています。
プレス順送は最も生産性の良い加工方法といわれていますが、大変複雑な構造の型になるため熟練された金型設計技術が必要とされます。大橋さんはその金型設計から加工まで一貫して行うことのできる卓越した技術をもっています。
金属プレスの「順送」は最も生産性の良い加工方法といわれ、工程が短くコストを抑えられる上に同品質製品の大量生産を可能にしていますが、大変複雑な構造の型になるため熟練された金型設計技術が必要とされます。大橋明夫さんはその金型設計から加工まで一貫しておこない、とくに1枚の板からしごいて筒のようにする「しぼり」とよばれるものなどに卓越した技術をもっています。当日は会社で作られている自動車部品などの展示をおこない、質問者にわかりやすく説明していました。

磯野紀子(いその のりこ)マイスター  印章彫刻士

自分だけの手彫りの判子・・・磯野紀子さんは失われつつあるてん刻の技能を保持すると同時に、ボランティアで小学生にてん刻の楽しさを教えるなど、社会活動を通じてその技術をひろめている貴重な印章彫刻士です。てん刻を習う子供たちは鉄筆の持ち方や彫り方を指導されながら磯野さんがあらかじめ書いた文字を彫っていきますが、「子供は思い切りがいいのでうまく彫れる」と磯野さんはいいます。彫り方を教える際にはけがをしないようにということに一番気をつけているとのことです。
てん刻は木製の台にはさんだ石に極細の彫刻刀で名前を浮かび上がらせるという細かい作業が要求されます。
てん刻は木製の台にはさんだ石に極細の彫刻刀で名前を浮かび上がらせるという細かい作業が要求されます。
当日も、希望者にてん刻の指導をしました。本をひらきながら「これのほうがいいんじゃないの」といったやりとりをしているので尋ねてみたところ、書体を選んでいるとのこと。てん刻の書体は一つの文字にもさまざまな種類があります。初めて彫る人にはあまり込み入っている文字より比較的やさしいものを選んであげるようにしているとのことです。

鍵谷清作(かぎや せいさく)マイスター 金属ヘラ絞り

すべての金属は、力を与えたときに変形したままの状態にとどまろうとする性質と、逆に、反発して元に戻ろうとする2つの性質をもっています。ヘラ絞りは、変形したままの状態にとどまろうとする性質を利用した加工技術の一つで、金属材料を回転させながらヘラ棒で押さえ、局部的な変形を徐々に与えながら丸い立方体を作る技術です。イメージとしてはろくろを回しながら作品を作っていく陶芸家のような感じという説明をする人もいます。当然、高い技能が要求されますが、鍵谷清作さんはこのヘラ絞りの熟練した職人です。数少なくて複雑なものを作る場合にはヘラ絞りは欠かせませんが、一般にはあまりなじみのない技能です。「ロケットの先端を作った職人さんがテレビで紹介されたりして少しは知られてきましたがね・・・」と鍵谷さんもいいます。
ヘラ絞りは「素材との対話」という鍵谷さん。たとえ5分でできたものでも愛着がわくといいます。
ヘラ絞りは「素材との対話」という鍵谷さん。たとえ5分でできたものでも愛着がわくといいます。
ヘラ絞りは50年にわたり手がけてきた鍵谷さんにとっても「そのつど変わらない面白みをあたえてくれる」やりがいのある技術とのこと。「素材と対話」しながら思いえがいたものができあがったときは、たとえ5分でできたものでも愛着がわくといいます。たまにはいうことを聞いてくれず「このやろう」と怒りたくなる素材もあるとのことですが、その場合にも優しくなだめながら根気よく対話していきます。ヘラ絞りに関する本はなく「自分の考えでする部分がけっこう多い。その分たのしい」と鍵谷さんは目を細めてその魅力を語ってくれました。