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坂道は続くよ、どこまでも

第9回「日向坂」の巻

宮前区は丘陵地帯に位置し、坂道が多いところ。区内には公募によって愛称が制定された坂道が18カ所あり(昔からの呼び名を持つ坂道も含む)、それらの坂には命名の由来を記した標識がそれぞれ設置されています。
地域の人々に親しまれ続けてきた18カ所の坂道を上って下りて、周辺を散策してみましょう。
<標識に記された坂名の由来>
昔、この周辺を「日向(ひなた)」と呼んでいたことから愛称としました。
平成13年2月1日制定

坂道データ

Data-09

【名称】日向坂 ひなたざか
【所在地】東有馬3丁目
【緯度経度】始点E139.35.36.4N35.34.5.2/終点E139.35.37.3N35.34.12.1
【アクセス】川崎市バス・東急バス「下有馬」停留所から始点まで徒歩2分
【長さ】約226m
【形状】始点よりやや急な上り。約125mの付近から傾斜は緩やかになる。終点まで一直線。
【様子】上りの左側だけに歩道がある2車線。日中の交通量は少ない。
【休憩地】始点のそばに有馬公園。ベンチ5台、すべり台、鉄棒、砂場あり。
【その他】始点の右側にマンション。少し先の左側に地域グループホーム。ほかはおもに一軒家が並ぶ。始点は下有馬交差点。終点は川崎北高校入口交差点。
始点
始点
途中
途中
終点
終点
太陽をさんさんと浴びる
有馬公園
太陽をさんさんと浴びる
有馬公園

散策ノート

名のとおり日差しをたっぷり浴びる“日向坂”

日光を浴びて
育った実の重さで枝がしなる
日光を浴びて
育った実の重さで枝がしなる
下有馬交差点に立ち、日向坂を眺めます。坂沿いに建つマンションの植え込みが階段状に段々になっているのを見ると、坂の傾斜がどのくらいあるのかが一目瞭然。自転車を押しながらゆっくりゆっくり上っていく人がいるのも納得です。坂上の川崎北高校入口交差点の信号機がちょこんと頭だけが見えることからも、坂下との高低差がわかります。
 かつて、日向(ひなた)と呼ばれていただけあり、日当たりのよい地。一軒家の庭先では柑橘類の果実がたわわに実り、日差しを浴びてまぶしく輝いています。屋根に太陽光発電システムのパネルを取り付けた家も目にとまります。
おもわず通り過ぎて
しまいそうになった
馬頭観世音
おもわず通り過ぎて
しまいそうになった
馬頭観世音
耳に聞こえてくるのは、鳥のさえずりと犬の鳴き声。静かだなぁと川崎北高校入口交差点を左折すると、畝(うね)が何本も並ぶ畑が見えてきました。ビニールハウスのなかでは農家の方がホウレンソウを収穫中。「ホウレンソウは秋から冬にかけてとれる。これは11月上旬に種を蒔いたぶんだよ」。
 太陽がふりそそぐ畑のあいだの道を行き、下り坂になったあたりで現れたのは梅林。枝にはつぼみがたくさんついていて、うっすらと赤みが差しているものも。通りがかりの人が「今年は暖かいから、花が咲くのも早いんじゃないかしら」と話していきます。
 あっと気づいた足下には小さな石碑。消えつつある表面の文字は「馬頭観世音」と書いてあるようです。

梅林の先で見つけた下有馬不動尊の神秘的な姿

竹林の崖下にたたずむ
不動尊。
厳かな空気が漂っている
竹林の崖下にたたずむ
不動尊。
厳かな空気が漂っている
農家の庭に黄色の蝋梅(ろうばい)が咲いているのを眺めながら歩いていくと、再び梅林。先ほどの梅林の反対側へぐるっとまわって来たのでしょう。これだけ広大な梅林に花が咲いたらきっとすばらしい眺めだろうと考えているうち、舗装道はおしまいとなって土の道に。「不動明王……」と刻まれた石柱から上方へ赤い手すりの階段が伸びています。
 階段を上ろうとしたとき、右側へも道が続いているのに気がつきました。そちらへまず向かうと、竹林にうっそうと囲まれた崖下に一体の石像。榊と花が供えられ、塩が盛られています。厳かな空気がぴんと張り詰め、別世界に迷い込んだみたいです。
春と夏に護摩焚きの講が
行われる下有馬不動堂
春と夏に護摩焚きの講が
行われる下有馬不動堂
階段の上にお堂。かたわらに「下有馬不動堂再建記念碑」が建てられています。「昔は滝が流れ落ちていて、水ごり場があったっていう話だよ。神様や仏様にお参りする際にそこで心身を清めたんだね」とは、後から階段を上ってきたおじさん。「江戸時代中期の不動尊が奉られた神聖な場所なんだ。20年くらい前には湧水に沢ガニがいたって、うちの子どもが言っていたな」。たしかに不動尊像のそばの水路にバケツが置いてあります。今もときには清水が湧き出ているのかもしれません。
 「境内には大きなツバキの木も立っている。原種のヤブツバキでめずらしいんだ」。お堂の上にそびえる木には深紅の花がいくつもついていました。

この地に湧く不思議の泉に出会い、大汗をかく

湯治目的の保養所として
宿泊できる。
朝夕食付1人8,370円
(2名1室時)~
湯治目的の保養所として
宿泊できる。
朝夕食付1人8,370円
(2名1室時)~
下有馬不動尊から少し歩いて東有馬3丁目公園へ。金網フェンスの向こうにマンションや一軒家が並ぶ住宅地の眺めが広がりました。そのなかに「有馬温泉」の看板を屋上にのせた建物。温泉……? と足を向けます。
 「有馬療養温泉旅館 日帰り入浴歓迎」と書かれた入口。すぐ横には八幡宮と「霊光泉(れいこうせん)」の文字が刻まれた碑、「史蹟 我が國最古霊泉湧出の地」という説明板も立てられています。
 それによると、この地に湧き出る泉は大化3年(647)役小角によって発見。天皇の子・阿部内親王(後の孝謙天皇)の病気を治療した療養泉として、野川の影向寺とともに深い歴史を歩んできたそうです。
 「病気が治ったお礼に西明寺が建てられました。西明寺は大寺となって小杉へ移り、不動尊とお堂が残されたんです」と話してくれたのは、有馬療養温泉旅館の安岡一剛さん。不動尊とは先ほどの下有馬不動尊です。「大地震が起こって泉源がとだえたこともありましたが、昭和40年代に再び発見されたのが、この療養泉。当時の厚生大臣がたびたび訪れ、湯の効力のすばらしさに『霊光泉』と命名されました」。
日帰り入浴は11~21時、水曜休。
大人1400円(2時間以内)。
<写真提供/有馬療養温泉旅館>
日帰り入浴は11~21時、水曜休。
大人1400円(2時間以内)。
<写真提供/有馬療養温泉旅館>
「お湯のよさは入ってみないとわからないですよ」の言葉に、それではと鉄分を含む単純炭酸鉄泉の湯にざぶん。やわらかいお湯に包まれて指先がじんじんとしてくると同時に、額から大粒の汗が次々と出てきました。
 「朝一番の湯の表面に金色の膜が張るんです。なぜ張るのかはわかりませんが、湯の成分と関係しているんでしょうね。よく温まって、足腰の痛みや不妊症にとても効果があると、1ヶ月ほど宿泊して長期滞在する人もいますよ」。
 脱衣所で「1回入っちゃうとまた来たくなっちゃうのよねぇ」というおばあちゃんたちとおしゃべり。「外に出ても寒くないから不思議よ」「夜まで身体がぽかぽかしているの」と教えてもらったとおり、短時間で汗が大量に出て、なかなかひかないことに驚き。これはクセになる……と思ったのでした。

※川崎市国民健康保険加入者には市内各区役所にて保険施設特別割引利用券を配布。65歳以上にも日帰り入浴の割引サービスあり

08年1月に散歩しました。
●参考資料/宮前ガイドブック(宮前区発行)ほか
文・写真・イラスト:森田奈央 川崎市在住のフリーライター。散歩が好きで、好奇心のおもむくままに日々歩きまわっている。著書に猫を追いかけて歩いた「ネコ路地へ行こう」(小学館文庫)。