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坂道は続くよ、どこまでも

第13回「神明坂」の巻

宮前区は丘陵地帯に位置し、坂道が多いところ。区内には公募によって愛称が制定された坂道が18カ所あり(昔からの呼び名を持つ坂道も含む)、それらの坂には命名の由来を記した標識がそれぞれ設置されています。
地域の人々に親しまれ続けてきた18カ所の坂道を上って下りて、周辺を散策してみましょう。
<標識に記された坂名の由来>
この坂の途中に神明神社(しんめいじんじゃ)があることから愛称としました。
平成12年2月1日制定

坂道データ

Data-13

【名称】神明坂 しんめいざか
【所在地】有馬5丁目
【緯度経度】始点E139.34.53.9N35.34.13.1/終点E139.35.6.1N35.34.16.5
【アクセス】東急田園都市線鷺沼駅から始点まで徒歩12分
【長さ】約445mm
【形状】始点より急な上りで、右へ大きくカーブ。そのまま上りが続き、約140m付近で平らに。その後は下りとなり、約155m付近で再び急な上り。約230m付近から平らになり、つきあたりを直角に左折。約352m付近でやや急な下りとなり、終点へ。
【様子】歩行者、自転車、自動車どれも交通量はとても少ない。上ったり下ったり曲がったり、いままでにない変則的な坂。
【休憩地】終点から約140mの場所に有馬中央公園。広い公園で、トイレ、ベンチ、すべり台、ブランコなどあり。
【その他】寺、神社、植木園、ナシ園、一戸建ての住宅と、景色に変化がある。
始点
始点
途中
途中
終点
終点
グラウンドと木立が広がり、
午後は小学生を中心に
多くの子どもたちが
走りまわっている。
グラウンドと木立が広がり、
午後は小学生を中心に
多くの子どもたちが
走りまわっている。

散策ノート

始点のそばに立つ寺をぐるり

建武4年の板碑を中心に、
多くの板碑が重ね立てられている。
建武4年の板碑を中心に、
多くの板碑が重ね立てられている。
今回やってきたのは神明坂。三田橋交差点から通りを1本入ったところから、坂が始まります。「宮前ガイドブック」の地図を見ながら、坂の始点を見つけましたが、坂名を記した標識が見あたりません。はて? と思いながら、急な坂を上っていきます。
 すぐ右手に「寿栄山 福王禅寺」と門柱に書かれたお寺が現れました。福王寺は『新編武蔵風土記稿』に「慶長7年(1602)開山僧没す」と記されているのみで、開山時期は不明。お堂に墨字で「準西國稲毛観音霊場 第十二番福王寺」とあります。
 境内で次に目にしたのは、たくさんの板碑。鎌倉~室町時代を中心に供養塔として造られた石の卒塔婆で、真ん中の板碑には「建武四年 十二月」の文字が刻まれています。年号を西暦にすると1337年。約700年の歳月を経て、ここに建っているのか……。
坂の標識のそばで咲いていた花。
キダチチョウセンアサガオかな?
坂の標識のそばで咲いていた花。
キダチチョウセンアサガオかな?
境内からは街並みを見下ろすことができ、坂をどれだけ上ってきたのかがわかります。門柱の反対側に急な石段があり、こわごわと下りてみると、石段下に庚申塔と地神塔。右手を見たら、先ほど出発した坂の始点。坂を上って、石段を下って、一周してきたわけです。
 気持ちを入れ直して石段を上り、境内を横切って坂に戻ります。右側に見えてきたのは、植木の苗がところ狭しと置かれている植木園。発酵した肥料のにおいが微かに漂っています。
 左側には、緑のなかに垂れ下がって咲くラッパ状の花。赤、白、黄色と3色そろって、なんていう名前の花だろう? と眺めているうち、おっと! と見つけたのが、神明坂の標識です。

農道だった頃を知る神社とナシ園

神明神社に立つ大木はクスノキ。
地域の人々を
見守ってきたのだろう。
神明神社に立つ大木はクスノキ。
地域の人々を
見守ってきたのだろう。
「東急電鉄が区画整備を行う前は、ここは人1人が通れるくらいの農道だったんですよ」。神明神社の方が神明坂について教えてくれます。「神明神社は山の崖の上のようなところに建っていて、まわりには農家がぽつぽつと建っているだけでした。その山や畑が整地されて道路が通ったんです」。
 神明神社の御祭神は天照大神。創建は文政6年(1823)以前と推定されています。平成14年(2002)9月には本殿が改築されました。
 「毎年10月第1日曜が例大祭です。今年(2008)は10月5日に行われ、朝9時から夕方6時まで御神輿が有馬や鷺沼の街を練り歩きます。子供神輿も出ますよ。夜は境内でカラオケ大会です。屋台も出店します」
せど園のナシ園。
もぎとり期間中の営業時間は
9:00~17:30頃、無休。
問合せ044-855-3916
せど園のナシ園。
もぎとり期間中の営業時間は
9:00~17:30頃、無休。
問合せ044-855-3916
「東急田園都市線が開通してから、このへんは急激に変わったね」とは、神明神社の隣のナシ園「せど園」の方。「8月中旬~9月中旬にブドウのもぎとり、9月上旬~下旬にナシのもぎとりができるんだ。入園無料で、収穫した分だけ計量して精算だよ」。
 ナシ園の入口には、「豊水」「新高」「あさづき」といったナシが並んでいます。「ナシの直売は8月上旬~9月下旬、ブドウの直売は8月中旬~9月中旬。10月下旬まではイチジクを直売しているよ」。
 神明坂について聞いてみると、「うちがナシ園を始めたのは昭和32年(1957)。その頃はまだ道路が通っていなかったから、坂道もなかったなあ」。

福王寺、神明神社、天満宮をつなぐ神明坂

天満宮の参道は
駐車場に囲まれて、
鳥居の背はちょっと低い。
天満宮の参道は
駐車場に囲まれて、
鳥居の背はちょっと低い。
神明坂はナシ園に囲まれた交差点を左折します。これまで歩いてきた宮前区の坂道でカーブする坂はあっても、かっちり90度に曲がる坂は初めてです。
 終点のそばで見つけたのは「天満宮」。学問の神様として知られる菅原道真を祀った神社です。ひっそりとした境内への階段の途中には、首を少し傾げた菩薩像。あたたかななやさしさにあふれた姿に、気持ちが和らぎます。
 そして、あ! と気がついたこと。それは、神明坂の道すじに福王寺、神明神社、天満宮があり、神明坂はそれらをつないでいるということです。
 なるほど神明坂は、地域の財産である3つの寺社をめぐる坂として、大切にしていきたいもの。そのため、坂の標識も名前の由来となった神明神社のそばに、わかりやすく立てられたのかもしれません??
有馬中央公園の東側に
立つ禅寺丸柿(右側手前)。
いまも実を結ぶ。
有馬中央公園の東側に
立つ禅寺丸柿(右側手前)。
いまも実を結ぶ。
有馬中央公園のまわりを散歩中のおばあちゃんと立ち話。「東急の区画整備でね、山だったのを削って公園にしたのよ」。おばあちゃんはとても元気な話しぶりです。
 「昔、ここに湧き水が湧いていて、山のくぼみにたまっていたの。それを “たねえ”って、言葉の意味はわからないけど呼んでいてね、よく洗濯物をすすぎに来ていたの。ほら、そこに禅寺丸の柿の木があるでしょ。その木のそばに“たねえ”はあったのよ」。
 神明坂が農道だった頃の風景は、人々の記憶の中にまだ鮮明に残っているようです。そこには福王寺、神明神社、天満宮をお参りする人々の姿もあることでしょう。これからは神明坂とともにそれらの風景が伝わっていったらいいなあと思いました。

08年9月に散歩しました。
●参考資料/宮前ガイドブック(宮前区発行)ほか
文・写真・イラスト:森田奈央 川崎市在住のフリーライター。散歩が好きで、好奇心のおもむくままに日々歩きまわっている。著書に猫を追いかけて歩いた「ネコ路地へ行こう」(小学館文庫)。