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坂道は続くよ、どこまでも

第14回「たいら坂」の巻

宮前区は丘陵地帯に位置し、坂道が多いところ。区内には公募によって愛称が制定された坂道が18カ所あり(昔からの呼び名を持つ坂道も含む)、それらの坂には命名の由来を記した標識がそれぞれ設置されています。
地域の人々に親しまれ続けてきた18カ所の坂道を上って下りて、周辺を散策してみましょう。
<標識に記された坂名の由来>
坂を上り切ったところに平公園があることから愛称としました。
平成12年2月1日制定

坂道データ

Data-14

【名称】たいら坂 たいらざか
【所在地】平1丁目、2丁目
【緯度経度】始点E139.34.44.0N35.35.47.8/終点E139.34.44.8N35.35.55.9
【アクセス】川崎市バス向丘出張所停留所から始点まで徒歩2分
【長さ】約250m
【形状】始点よりやや急な上りでストレート。約140m付近で左へカーブした後、約200m付近で右へ緩くカーブ。やや急な上りのまま、終点へ。
【様子】道幅は狭く、向丘小学校に沿った部分のみ歩道が設置。日中の歩行者、自動車の交通量は少ない。自転車、ベビーカーで上るには力が必要。
【休憩地】向丘小学校の歩道にベンチ2台あり。終点からすぐの平公園にベンチ、すべり台、ブランコ、水飲み場などあり。
【その他】スクールゾーンになっており、始点に「朝709時進入禁止」の看板が立てられている。やや急な上りが続くため、体力がないときはつらい。
始点
始点
途中
途中
終点
終点
向丘小学校沿いの歩道とベンチ
向丘小学校沿いの歩道とベンチ
自然の地形をいかした
3層構造の平公園
自然の地形をいかした
3層構造の平公園

散策ノート

名前はたいらでも、たいらじゃない坂

平公園の紅葉。
目を見張るばかりの
透明感に心が洗われる。
平公園の紅葉。
目を見張るばかりの
透明感に心が洗われる。
たいら坂の始点に立つと、カレーのいい香りが漂ってきました。どうやら「向丘小学校」の今日の給食はカレーのよう。「お昼ごはんはカレーみたいだね」と、手をつないでお散歩中の男の子とお母さんも鼻をくんくんとさせています。
 歩道の植え込みにはコブシの木。黄色の葉はもうすぐ全部落ちてしまいそうですが、代わりに白い毛に覆われた冬芽がにょきにょき。春先に咲く花の準備は着々と進んでいるのです。
 一歩一歩力いっぱい踏みしめながら上り、坂の上にようやく到達。坂名の由来となった「平公園」は紅葉が真っ盛りです。「日向」と呼ばれていた周辺地域の名が、いまも「平日向」と自治会名に受け継がれている南斜面の地区。おだやかに降りそそぐ日射しが黄赤の葉をより鮮やかに浮かび上がらせ、地面には日だまりを作っています。
尾根道からは天候によって
富士山も眺められるそう。
尾根道からは天候によって
富士山も眺められるそう。
たいら坂からの道は「平保育園」「平こども文化センター」「老人いこいの家」の前を通ると、尾根道になります。右側に見下ろせるのは五所塚の住宅街。東に「東高根森林公園」、西に「生田緑地」の緑(ところどころ紅葉の黄や赤)も眺望できます。
 左側には大根や里芋が葉を大きく広げた畑。道沿いのサザンカはつぼみを無数につけていて、深紅の花を開かせているものも。サザンカの季節がまためぐってきたんだなあとしみじみと見ます。
 畑の下方は平2丁目の住宅街。その先には一軒家やマンションがびっしりと並んだ丘が連なっていて、遠くに丹沢や大山などの山並みが眺められます。ほお0っと、お腹の底から深呼吸。こんな景色が待っているとは思いませんでした。

たいら坂のまわりは平の中心だった地域

静かに過ごすには
絶好の平緑地。
東名高速道路も発見。
静かに過ごすには
絶好の平緑地。
東名高速道路も発見。
「向ヶ丘遊園センチュリータウン」の団地を横目に進み、ケヤキ並木の坂道を下りていきます。歩道では住人の方が落ち葉掃き。竹ぼうきのさっさっさっという音に秋を感じます。
 坂の途中で見つけたのは「平緑地」。ツツジとアジサイの植え込みに導かれて細い道を入っていくと、眼下に平1丁目の住宅街。なんと、先ほどえっちらおっちらと上ったたいら坂も見下ろせ、なにやらヒミツの場所からこっそり覗いているような気分。ベンチに座って、その空間を楽しみます。
室町時代創建の東泉寺。
茅葺き屋根が趣深い。
室町時代創建の東泉寺。
茅葺き屋根が趣深い。
坂に戻って、その先の階段を下り、宮前消防署向丘出張所の前へ。この出張所の前の通りは、たいら坂の始点の向丘小学校、宮前区役所向丘出張所、東泉寺へ通じる道。昭和3年(1927)に初めて乗り合いバスが走り、平地区の中心部として栄えた旧道です。ちなみに、宮前区役所向丘出張所は明治22年(1889)の町村合併制によって「向丘村」が生まれた際の村役場でした。
 そして、東泉寺といえば、「宮前バスの旅 第8回 登05 菅生車庫-登戸駅(生田緑地口)の旅」で訪れた寺。ほかではあまり見られない茅葺き屋根の山門がちょうど改修工事中で、またお邪魔しようと楽しみにしていました。
 茅葺き屋根の山門はすでに完成。風情あふれる素朴な姿が目の前に現れます。11月1日、2日には「山門参道改修落慶法要」と新しい住職の就任を祝う「晋山式(しんさんしき)」が賑やかに行われたそうです。

弥生時代の遺跡をはじめ、平に残されているもの

「サラダや酢漬けにするとおいしいよ!」
という赤大根。
「サラダや酢漬けにするとおいしいよ!」
という赤大根。
また、東泉寺、向丘小学校、向ヶ丘遊園センチュリータウンにかけての丘陵地一帯は、かつて「風久保」と呼ばれ、今も公園やマンションにその名が残されているところ。昭和49年(1974)、向丘小学校ではグランド工事中に弥生時代の住居跡や土器、石器が発掘され、「平風久保遺跡」と命名されました。
 東泉寺はもともと平瀬川の南側にあり、その場所は今、東泉寺の墓地になっています。平瀬川に泳ぐコイや水浴びをしているカモを眺めながら歩いていくと、畑に紫色の大根が植えられているのがふと目に入りました。
 畑仕事をしていた方が、「赤大根っていうんですよ」と教えてくれます。「この畑で収穫した野菜の一部は、高津区新作にある『川崎市民プラザ』で毎週金曜に直売しています。生協の仲間10人くらいと定番の野菜のほかに赤大根、ベカ菜、紫イモなど珍しい野菜も持ち寄ってね。赤大根の販売は12月いっぱいまでかな」。
 宅地化が進んだ平ですが、新鮮な野菜が収穫される畑もあちこちに残されているのです。
「平消防部器具置場」
の脇に建つ火の見やぐら。
「平消防部器具置場」
の脇に建つ火の見やぐら。
平に残されているものといえば、平瀬川に架かる「石橋」から左に入ったところにある火の見やぐら。木の板が掛けられ、「半鐘は撤去しました」と書かれてあります。「最近まで半鐘がついていたと思うけどねぇ」とは、おでかけ途中のおばあちゃん。「火事になると打ち鳴らしていましたよ。確か30040年前まではね」。
 現代となって、その使命を終えた半鐘。弥生時代にはすでに歴史を刻み始めた平にどんな音が響き渡っていたのかなあと、火の見やぐらを見上げました。

08年11月に散歩しました。
●参考資料/宮前区ガイドブック(宮前区発行)、川崎地名辞典(川崎市)ほか
文・写真・イラスト:森田奈央 川崎市在住のフリーライター。散歩が好きで、好奇心のおもむくままに日々歩きまわっている。著書に猫を追いかけて歩いた「ネコ路地へ行こう」(小学館文庫)。