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路傍の晶

遊食彩家 串一 安齊さん

備長炭の旨さを追求する安齊さん。
串焼きにあう酒類も厳選している。
備長炭の旨さを追求する安齊さん。
串焼きにあう酒類も厳選している。
釈然としないおもいに駆られていた。仕事がけっして面白くないわけではない。高校を卒業して10余年、建築業一筋に心血を注いできた自負もある。だが30歳を過ぎ、あらためて自身の内と向き合ったとき、まだ消えていない夢の炎を見止めた。「飲食業をやりたい」――これが彼の偽らざる気持ちだった。

「もちろん大工の仕事は面白かったんですよ」当時を振り返り、安齊さんは笑みをこぼす。
「そうでなかったら、10年以上もひとつのことに集中できなかったでしょう。でも一方で、飲食業に対する憧れも捨てきれなかった。高校時代に3年間、いろんな飲食店でアルバイトをして、いつかは自分の店を持ちたいと思っていたんです。どんな仕事でも苦労は付きものですが、どうせなら自分のほんとうにやりたいことで苦労したい。そんな気持ちを抱えて、この業界に飛び込みました」

 しかし、かつて携わっていたとはいえ、すべてがゼロからのスタートである。趣味で家族に料理を振る舞うことはあっても、無論、商売とは別物だ。苦労は想像以上だった。30代の見習いは培ったプライドをことごとくへし折られ、弱音もしばしば口をついた。それでも厨房に立ち続けたのは、「いつか必ず自分の店を持つ」という揺るぎない決意だった。
家族連れに好評の「キッズルーム」。
楽しいひとときを手助けする。
家族連れに好評の「キッズルーム」。
楽しいひとときを手助けする。
さまざまな葛藤を乗り越え、晴れて独立を果たしたのはいまから3年前、彼が37歳のときである。「飲食店が極めて少ない」という郷土愛から、場所は宮前区野川に決めた。存在感溢れる古民家風の建物は、ありきたりのものを嫌う店主の意思が反映されている。

 こだわりはさらに、なかの“つくり”にも及ぶ。もっとも象徴的なのが「キッズルーム」、すなわち子どもたちが遊べるスペースだ。通路もゆとりをもって設計されており、幼児が駆けても周囲に迷惑がかからぬよう気配りがなされている。

「家族連れの方にも楽しんでもらえるお店にしたかったんです」自身も小学生の子どもを持つ安齊さんは、その真意をこう語る。
「小さいお子さんがいると、どうしても食事は二の次になってしまう。でも、親御さんだって美味しい料理をゆっくりと味わいたいもの。ですからキッズルームを設けて、家族連れのお客さんでも落ち着いて食事を楽しんでもらえるよう工夫しました」
ぬくもりを感じさせる古民家風の店。
総天然木の佇まいに心まで癒される。
ぬくもりを感じさせる古民家風の店。
総天然木の佇まいに心まで癒される。
備長炭で焼く串焼きや厳選した酒、そして家族連れに優しい店の気配りによって、「串一」は近所でも評判の店に成長した。「おかげさまで、多くのお客さんにかわいがっていただいています」と、安齊さんも喜びを隠さない。だが一方、満足感に浸る様子もない。

 彼は言う。
「あのときの選択が間違っていなかったと確信を持てるのは、まだまだ先だと思います。実際、自分自身もお店とともに日々、育てられている。お客さんの喜ぶ顔を見るために、また決断してよかったと今後、思えるように、一日いちにち頑張っていきたい」
実現してもなお、夢に終りはない。安齊さんの内なる炎は、より強く燃え盛っていた。



取材・文◎隈元大吾
遊食彩家 串一

住所:〒216-0001  川崎市宮前区野川3215
電話番号:044-798-1594
営業時間:
17:30~翌1:00 平日
17:00~翌1:00 土・日曜、祝日
定休日:年中無休