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路傍の晶

日本ペットスクール川崎校

-NPS・KAWASAKI- 岡本さん

「物心ついたころから犬が好き」
そんな思いが岡本さんの原点だ
「物心ついたころから犬が好き」
そんな思いが岡本さんの原点だ
卒業する生徒たちの背中を見送りながら、「トリマーは素晴らしい仕事」だと言い切れぬ自分に気付いていた。専門的な勉強を経て得た技術は過酷な肉体労働に埋もれ、動物に咬まれれば傷はおろか感染症にも脅かされる。おまけに給料も安い。文字通り「3K」といえる職場環境を思えば、離職率が極端に高いのも我ながら頷けた。

「犬が好きでトリマーを志したひとたちが、もっと胸を張って仕事ができるように業界を変えられないか」そう思い募ったのがすべての始まりだった。日本で初めて「コンシェルジュトリマー」という地位を築いた岡本さんは、自身の思いをこう語る。
「トリマーといえば、従来は“犬をキレイにしてくれるひと”ですよね。それはもちろんなんですが、私たちは定期的にワンちゃんと接しますし、多ければ2週間に一度は会います。当然、それぞれの特徴や生活環境も把握している。それならプロの知識を活かしつつ、飼い主さんと犬の生活をもっとサポートしてあげられるんじゃないかと考えたんです」
スクールは「1人1頭制」を柱に
親身な指導を実践している
スクールは「1人1頭制」を柱に
親身な指導を実践している
“ペットの美容師”の域を越えた親身な姿勢は、一冊の手帳に集約されている。それぞれに手渡される手帳には、施術の際の犬のコンディションのみならずトリマーの気に留まった点について詳細に記録される。毎日ともに暮らしている飼い主だからこそ逆に見落としがちな変化もプロは見過ごさない。過去には悪性の腫瘍を見つけて報告し、一命を取りとめた犬もいたそうだ。たんなるペットの美容師であれば、起こりえぬ事例だろう。

 しかし、いまでこそ飼い主に認められるようになった岡本さんの新たな取り組みも、さまざまな試行錯誤の賜物だった。2002年に日本ペットスクール川崎校の立ち上げに参画した当時は、まだ純然たるトリミングスクールだったという。彼女自身も講師としてトリマーの育成に日々、情熱を注いでいたものだ。

だが業界に身を置き、内情を知れば知るほど、日本がいかにペット後進国であるかを思い知らされることになる。たとえばペットフードだ。主原料や内容物を明示する欧米に比して、日本は表示されていない商品が少なくない。ブリーダーにしても、職業的繁殖家と趣味で行なっている人々を一緒くたにする傾向が日本にはある。この国ならではというべきなのか、こうしたある種、“隠す文化”によって引き起こされるトラブルは後を絶たない。
「業界を大きく変えたい」という
信念のもとに運営されている
「業界を大きく変えたい」という
信念のもとに運営されている
「犬が好きなひとはなおさらやっていけないかもしれない」そうペット業界を憂う岡本さんは、識者やスタッフとの意見交換を重ね、消費者に働きかけることを思いついた。プロとして持てる知識を発信すれば、飼い主も実情を知り、厳しい目を持つこともできよう。さすればブームに沸く業界もよりよい方向に活性するのではないか。コンシェルジュトリマーをはじめトリミングスクールの枠を超えた彼女の挑戦は、こうして導かれたのだった。

 岡本さんは現在、「スマイルドッグ」というクラブを立ち上げ、たとえば獣医が用いる薬の調査やしつけの検証など、これまでは知りえなかったペットにまつわる情報を会員向けに提供し、イベントやセミナーも随時行なっている。
「今後さらに力を入れ、飼い主さんが自らきちんと見極めることの大切さと、コンシェルジュトリマーの必要性をもっと知っていただけたらうれしいですね」
生徒やスタッフを指導する傍ら店を切り盛りし、クラブの活動にも力を注ぐ。日々、挑戦を続けるコンシェルジュトリマーの表情は、かつては見られなかったであろう充実感に溢れていた。



取材・文◎隈元大吾