振り返れば挑戦の連続だったと言えるかもしれない。事の発端は高校時代だ。少年は中学まで絵を描きつつ吹奏楽に明け暮れていたが、進学してラグビーと出会い、初めて体育会系に足を踏み入れる。さらに大学に進んでからは、かねてより憧れを抱いていたアメリカンフットボール部を自ら立ち上げ、勉強もそっちのけで楕円球を追いかけた。

　卒業し社会人となってからもボールを追いかける日々は続いた。忙しい仕事の合間を縫っては所属するクラブチームで汗を流し、体づくりのためにボディビルのジムにも通った。

　じつは肉体と向き合ったこれら一連の経験が現在を支えている。「スポーツをやったことがスポーツトレーナーを志した原点」と小長井さんは言う。
「たとえばケガをしたときに治してくれる場所はいろいろあります。ただ、たとえ目に見える部分で回復しても、筋肉に痛みが残っているような状態が多々あった。でもそれはどこへ行っても解決できない。競技を覚え、またウェイトトレーニングによって体をつくることも覚えたけれど、何かが足りない。疑問を解決するには自分で勉強したほうが早いだろうと思い、学校に通い始めました」

　からだについて学ぶためにはいくつかの選択肢があったが、会社に勤めている身である。仕事に支障がないよう、彼は夜間と土日で通える整体の専門学校を選んだ。

それにつけても、当時の生活はハードだった。大手メーカーで電子部品の営業を担当していた小長井さんが扱う商材は、月に数万点に及んでいた。そのすべてに目を届かせなければならないのだから、「週に2回は朝日を拝んでいました」と苦笑まじりに語られるのも無理はない。自身の体に鞭打ちながら、3年がかりでひとの体について学んだ。

　卒業して以降も肉体の探求は続いた。スポーツクラブや治療院に足を運び、さまざまな治療家の考え方に触れ、手技を磨くべくアメフトの仲間たちに施術もした。試行錯誤の末、自身の求める手技体系に辿り着き、’94年の独立に至ったのだった。

鷺沼の整体院を開業したのは'97年3月のことだ。以来10年のあいだにもさらなる研究を重ね、股関節と顎関節に特化した「Move Free療法」という独自の体系を編み出した。その真意はこうだ。
「歩く際に動かす股関節と食べるための顎関節は、人間がいちばん使っていながら手入れを怠っている部位。そこをコンディショニングすることによって日常のオーバーユーズやオーバーワークによる負担を軽減します。身体が楽になるとともに、運動にもスムーズに向かえるようになるでしょう」

　さらに、「最近取り組んでいることがある」と明かす。
「免疫に関心を持っています。手技によって外側からケアするとともに、免疫力を高めることで内側からも体を整える。よりよりコンディショニングのお手伝いができればと思っています」
　スポーツと出会って30余年、小長井さんの挑戦はまだまだ続いている。


取材・文◎隈元大吾