少々ぎこちなくも瑞々しいステップがステージに映える。スポットライトを浴びる主役たちは3歳から50代までと幅広い。同様に、ジャンルもさまざまだ。クラシックバレエに始まり、ジャズダンスやミュージカルダンス、ヒップホップなど、あらゆる踊りが舞台に舞う。

クライマックスはプロのダンサーたちによる演目だった。すなわち、アマチュアからプロまでが一同に会し、おなじステージで、おなじスポットを浴びる。フィナーレでもまた、観客からおなじ温度の拍手で迎えられる。ワイダンスカンパニー「1st パフォーマンス」はこうして、盛況のうちに幕を閉じた。

「たんなる“発表会”で終わらせるつもりはまったくないんです。ミュージカルの興行とおなじように、つねにショーアップを考えていますから」主宰する吉元さんは言う。昨年3月、東急田園都市線の宮前平駅にほど近い場所にスタジオを開いた。設立わずか1年だが、会員数はすでに300名以上を数える。宮前市民館大ホールで行なったくだんの発表会では、100名を超える教え子たちが初舞台を踏んでいた。

「ただし」吉元さんは続ける。
「堅苦しくやるつもりはまったくありません。僕も楽しみたいし、皆さんにも楽しんでほしい。20歳で踊りと出会って以来、僕自身がそうやって生きてきましたから」

吉元さんとともにスタジオを切り盛りする針山さんも、「皆さんに楽しく踊ってもらえることがいちばんです」と口を揃える。「ダンスに少しでも触れていただける機会をつくりたいと思って、スタジオを開きました。オーディションなど行なっていませんから、3歳の子からおじいちゃん、おばあちゃんまで、どなたにも気軽に来ていただきたいですね」

　ふたりは知る人ぞ知る経歴の持ち主である。吉元さんは劇団四季をはじめ、ミュージカルやバレエなど国内外のさまざまな舞台に出演し、また講師としてもこれまで数々の指導を行なってきた。4歳からクラシックバレエを始めた針山さんは、ボリショイバレエ学校留学を経てあまたのバレエ公演に出演したほか、ニューヨークに渡りバレエやジャズダンスの教鞭も執っている。姉と妹もまた、海外を拠点に活躍するバレエダンサーである。

世界を知るふたりならではの信念がある。それは、「最初が大事」ということだ。
針山さんは言う。
「欧米と違い、日本には残念ながら幼いころからバレエを専門的に学べる国立の学校がありません。もちろん、入り口からプロを目指す必要はまったくないと思っています。ただ、もしもいつかバレエの魅力に目覚めて、『プロになりたい』『海外で踊りたい』と真剣に思うようになったときに、最初を誤っているとその子の将来が閉ざされかねない。クセを直すのがもっとも大変なんです。ですから生徒さんたちがそれぞれの夢を叶えられるように、きちんと教えていきたいですね」

　吉元さんの想いも針山さんのそれに重なる。
「20歳で踊りに目覚めたとき、僕は運よく日本の権威の先生方に習うことができました。ジャズダンスは決まりが細かくてほんとうに難しい。それをきちんと後世に伝えることが、ダンス界に対する自分にとっての恩返しなんですよ」

現在もダンサーとして一線で踊るふたりのもとには、未就学児から出産後の女性、からだを動かしたい60代、プロを目指すひとたちまで、幅広い目的や年齢層の人々が集まる。彼らの実績を頼って、海外を志向する若者も少なくない。もちろん、それぞれの種が芽吹き、夢を花咲かせるまでには相応の時間が必要だろう。それまでのあいだ、吉元さんと針山さんは丹念に水を遣り、真っ直ぐな光を注ぎ続ける。なぜなら教え子たちの夢の開花が、日本のレベルの向上を期するふたりの夢に等しいからに他ならない。生徒たちとおなじく彼らもまた、「ワイダンスカンパニー」という自らつくったステージで、夢へのファーストステップを踏んだ。


取材・文◎隈元大吾