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坂道は続くよ、どこまでも

第5回「島坂」の巻

宮前区は丘陵地帯に位置し、坂道が多いところ。区内には公募によって愛称が制定された坂道が18カ所あり(昔からの呼び名を持つ坂道も含む)、それらの坂には命名の由来を記した標識がそれぞれ設置されています。
地域の人々に親しまれ続けてきた18カ所の坂道を上って下りて、周辺を散策してみましょう。
<標識に記された坂名の由来>
昔、この坂は、横浜方面への本道でしたが、当時の平瀬川は曲がっていて、この周辺が島に見えたことから島坂と呼ばれるようになったと伝えられています。
平成12年2月1日制定

坂道データ

Data-05

【名称】島坂 しまのさか
【所在地】平4丁目/初山2丁目
【緯度経度】始点E139.34.11.1N35.35.46.9/終点E139.34.9.7N35.35.40.6
【アクセス】川崎市バス「初山」停留所から始点まで徒歩1分
【長さ】約203m
【形状】始点より左に少しカーブ。約80m先の右カーブの手前まで緩やかな上り。右カーブ周辺で傾斜がやや急になり、その後は再び緩やかな上り。終点まで残り約40mの地点で左にカーブ。
【道路形態】幅が狭く、車同士がすれちがうのに困難な箇所多し。上り左側には一戸建てが、終点まで約50m地点からは畑が、右側には雑木林や竹林などが続く。交通量は少ないが、日中の歩行者のなかには散歩を楽しむ人々も目立つ。
【途中休憩地】とくになし。
【その他】終点まで約40m付近に保存樹林のケヤキが2本、馬頭観音が2基立っている。坂名は昔からの呼び名。
始点
始点
途中
途中
終点
終点
美しい竹林に
目を奪われる
美しい竹林に
目を奪われる
そびえ立つ
2本のケヤキ
そびえ立つ
2本のケヤキ

散策ノート

緑が多く、散歩に気持ちがいい坂

高台のまわりを流れる
平瀬川
高台のまわりを流れる
平瀬川
バス停留所「初山」からコンビニエンスストアがある交差点を右折すると、すぐに平瀬川にぶつかります。橋のらんかんに貼られたプレートに「平瀬橋」、もう一方に「ひらせがわ」。陽光を照り返す流れの底には、藻がゆらゆらと揺れているのが見えます。
 橋を渡った目の前に「島坂」の標識。坂名の由来に「当時、平瀬川は曲がっていて、この周辺が島に見えたことから」とあるのを見て、平瀬川を再び眺めます。平瀬橋から上流、下流と見ると、島坂周辺の高台の地区を囲むように川が曲がって流れていますが、「島に見えた」という当時はもっと曲がっていたのでしょうか……。
木々の影が日なたで
くるくると躍る
木々の影が日なたで
くるくると躍る
さて、島坂を上って行きます。これまで上り下りした坂は車道と歩道が分かれた道幅が広いものばかりでしたが、今回は車が1台通れば歩行者は脇に寄って待ったほうが安全というくらいの細い坂道。
 ぐんぐんと空に向かって伸びるタケノコが何本も見え隠れしている竹林からは、風が吹くたびに、こんからりんこんからりんと竹がぶつかりあう音が心地よく響いてきます。赤い小さなお堂が立つ雑木林からは、さまざまな鳥のさえずり。木々が影を落とす横道に入り、耳をすませて、どこにいるのかなと見上げます。心がおだやかになる、散策にぴったりの坂道です。

大切に残されてきたものに出会える道

道行く人々を
見守り続ける馬頭観音
道行く人々を
見守り続ける馬頭観音
立派な枝ぶりの松の木の先に、農家の大きな古民家が見えます。ケヤキが2本立っている場所から少し歩いた木陰には馬頭観音が2基。「東 二子道」「西 王せん○○(○○は確認できず)」と彫られているのを見て、坂名の由来に「昔、この坂は横浜方面への本道でした」と書いてあったのを思い出します。
 「2基のうち、『東 二子道』とある馬頭観音は、白旗台団地と初山団地のあいだの尾根道に置かれていたもので、団地建設の際にここに移されてきたんだよ」と、畑でお仕事をされていた農家の方。「もう1基はうちで飼っていた馬が死んだときに立てたって聞いたことがあるなあ」。側面に2頭の馬の名前と「明治二十八年十二月十日」「明治二十九年八月十九日」の文字が読めました。
大きなイチョウと
桜の木を従える閻魔堂
大きなイチョウと
桜の木を従える閻魔堂
沿道に揺れる野花に誘われて、終点からさらに先へ進みます。くねくねと続く道は、ほのぼのとする旧道の雰囲気。はしごの上高くに半鐘が吊り下がっているのを見つけ、おぉっ? と道路脇の階段を駆け上がってみたら、そこは「初山自治会館」でした。
 広場の真ん中には相撲の土俵の勝負俵かなと思わせる○の跡。大きな2本のイチョウの木の足下にはお堂があり、なかをのぞくと閻魔さま。保存樹林の桜の木、力石、庚申塔と、昔から大切に伝えられてきたものが静かにたたずんでいます。

おだやかになった心がさらに洗われる

本遠寺の境内に立つ
魚介類供養塔
本遠寺の境内に立つ
魚介類供養塔
広場から階段を下りようとしたときに目にしたのは、平瀬川の向こう側に広がっている緑。よし、あそこにも行ってみようと、来た道を折り返し、島坂を下って平瀬川を渡ります。
 交差点を越え、にぎやかな子どもたちの声に惹かれて行き着いたのは幼稚園の隣りに建つ「本遠寺」。建治元年(1275)、日蓮の弟子である日朗が鎌倉街道を通りかかり、一晩泊めてもらったお礼にと念持仏を納めたことによって創建。元禄8年(1695)、現在の場所に移築されたと伝えられています。大正11年(1922)に川崎市最古の図書館が造られたお寺としても知られていますが、境内に立てられている「魚介類供養塔」が気になります。
水生植物観賞地は
生田緑地のそば
水生植物観賞地は
生田緑地のそば
先ほど眺めていた緑を改めて目指し、「飛森(とんもり)谷戸」の看板を発見。ボランティアグループ「飛森谷戸の自然を守る会」によって整備され、雑木林のすそに流れる小川に沿って遊歩道が続いています。岩肌からは水が染み出し、水溜まりにはたくさんのアメンボ。清らかな水音を聴きながらゆっくりと歩を進めます。
 遊歩道に別れを告げ、少し離れたところで迎えてくれたのは「水生植物観賞地」。木道のまわりには黄ショウブが見事に咲き誇っています。森のなかへ伸びる散策道「ふるさとのこみち」も歩いて、木や葉っぱの新鮮な香りを胸いっぱいに深呼吸。心がすっかり洗われてしまいました。

07年5月に散歩しました。
文・写真・イラスト:森田奈央 川崎市在住のフリーライター。散歩が好きで、好奇心のおもむくままに日々歩きまわっている。著書に猫を追いかけて歩いた「ネコ路地へ行こう」(小学館文庫)。