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坂道は続くよ、どこまでも

第12回「八幡坂」の巻

宮前区は丘陵地帯に位置し、坂道が多いところ。区内には公募によって愛称が制定された坂道が18カ所あり(昔からの呼び名を持つ坂道も含む)、それらの坂には命名の由来を記した標識がそれぞれ設置されています。
地域の人々に親しまれ続けてきた18カ所の坂道を上って下りて、周辺を散策してみましょう。
<標識に記された坂名の由来>
旧大山道の一部で、坂の下に八幡さまがある。

坂道データ

Data-12

【名称】日向坂 ひなたざか
【所在地】東有馬3丁目
【緯度経度】始点E139.35.36.4N35.34.5.2/終点E139.35.37.3N35.34.12.1
【アクセス】川崎市バス・東急バス「下有馬」停留所から始点まで徒歩2分
【長さ】約226m
【形状】始点よりやや急な上り。約125mの付近から傾斜は緩やかになる。終点まで一直線。
【様子】上りの左側だけに歩道がある2車線。日中の交通量は少ない。
【休憩地】始点のそばに有馬公園。ベンチ5台、すべり台、鉄棒、砂場あり。
【その他】始点の右側にマンション。少し先の左側に地域グループホーム。ほかはおもに一軒家が並ぶ。始点は下有馬交差点。終点は川崎北高校入口交差点。
始点
始点
途中
途中
終点
終点
しばらくたたずんで
電車を眺めるのもいい
しばらくたたずんで
電車を眺めるのもいい

散策ノート

大山街道シリーズ最終回は宮崎台駅から

改札の前に電車とバスの
博物館入口への通路がある。
改札の前に電車とバスの
博物館入口への通路がある。
大山街道の名残を探しながら坂道を上ったり下ったりした前回と前々回の散策。今回はいよいよ、その最終回(いつの間にシリーズ化?)。前回散策を終えた宮崎台駅からスタートして、再び大山街道を追いかけていきます。
 夏の日差しがまぶしい季節。両側に小さい子どもを連れたおかあさんが「暑くないところでお昼を食べよう!」と宮崎台駅の隣に建つ「電車とバスの博物館」に入っていきます。
 「電車とバスの博物館」は入館料大人100円、小中学生50円、6歳未満無料とやさしい料金設定が嬉しい博物館。ガラス壁越しに施設内をのぞくと、展示されている電車車両の座席に座り、お弁当をおいしそうに頬ばる親子連れがいっぱい。夏休みには親子工作教室やプラレール運動会などのイベントが行われ、ますます多くの人々でにぎわいそうです。
歩道に大きな木陰を
作ってくれるイチョウ並木。
歩道に大きな木陰を
作ってくれるイチョウ並木。
イチョウ並木の木陰のなかを歩いていくと、「1920年代シンガーミシン網足の足踏みミシンが入荷しました!」の文句がぐぐっと目を惹くチラシ。どうやらチラシが貼ってあるビルの2階に、古物、雑貨、家具、陶器・ガラスの手作り小物などをリーズナブルなお値段で提供する「商屋(あきないや)」という生活雑貨のお店があるようです。
 さらにチラシをじっくり見ると、「宮前ぽーたろうに店の紹介を載せています」と書いてあり、親近感がふつふつ。それでは入店! と思ったら、残念、開店時間まであと30分。なんとも名残惜しいですが、その場を後にします。
 前回、訪れたコーヒー豆専門店「珈琲香味工房PEANUTS」の前を通ると、豆を焙煎している甘~い香り。うわあ、そそられる~! と、またまた後ろ髪を引かれます。

急傾斜のため、何度も道筋が変わった八幡坂

切り花や鉢植え、
苗花などを種類豊富に
揃えるYAWATAEN。
切り花や鉢植え、
苗花などを種類豊富に
揃えるYAWATAEN。
三叉路の左手は宮崎台駅近くから続くイチョウ並木、右手はヤマボウシ並木。イチョウ並木は下り坂になっており、これが八幡坂か、と地図で確かめます。
 手持ちの資料本『大山街道』には、「八幡坂は両側が土手のようになっていて木々が鬱蒼としており、昼間でも薄暗かった」「急坂だったため利用する人々はたいへんな苦労だったにちがいない」などと書かれています。八幡坂は何度も道筋が変わっているそうで、現在のように少し大まわりさせることで以前より傾斜が緩やかになったのでしょう。
 『大山街道』には、「八幡坂の途中に『八幡園』の看板が立てられた植木畑があり、坂下には植木や苗木を庭先に並べた八幡園の家がある」と、昭和48年(1973)発行当時のことも書かれています。
 現在、八幡坂を下りたところには、入口に「YAWATAEN」の文字がある園芸店。「以前は植木店で、東急田園都市線が開通してから園芸店を始めたと聞いています」とお店の方の話を聞いて、『大山街道』に名前が出てきた「八幡園」は、今の「YAWATAEN」の前身かもしれないなあ……。
八幡神社と小台稲荷神社。
境内からは馬絹方面を見晴らせる。
八幡神社と小台稲荷神社。
境内からは馬絹方面を見晴らせる。
八幡坂の名前の由来となった「八幡神社」は、かつて土橋村と馬絹村の境にあり、馬絹村の一部だった小台の住民たちが守ってきた神社。石段の途中には江戸時代建立の庚申塔と石段供養塔が向かい合って立っています。
 「八幡神社の石段は一段一段の幅が狭くて、もっと急だったんですよ」というのは、石段に座って休憩していた女性。「30年前に引っ越してきたときは、駅前にも藁葺き屋根の家がいっぱい建っていました。東名川崎インターチェンジの方では牛や豚を飼っている農家もありました。それから、八幡坂や小台坂は大山街道の一部だったそうですね」。

小台坂を一歩一歩進んで、尾根道に寄り道

複雑に絡みあっている
根っこが古木を思わせるイヌツゲ
複雑に絡みあっている
根っこが古木を思わせるイヌツゲ
尻手黒川道路を横断して、小台坂へ。右手に竹林が現れます。大正後期から昭和初期にかけて、小台ではタケノコ栽培が盛んでした。秋には栗や柿も多く出荷されていたといいます。しかし、区画整備工事でそれらは姿を消し、いま林立しているのは大型マンションです。
 竹林のあるお宅の門のそばには、「イロハカエデ 川崎市」の標識。見上げると、イロハカエデの伸びやかに広がる枝葉。秋にはどんな彩りを見せてくれるのでしょう。
 小台坂を少し上った反対側に、今度は「イヌツゲ 川崎市」の標識。さすが宮前植木の街。こんなに立派なイヌツゲはいままで見たことないと感心します。
数十年前まで街道らしい雰囲気が
残されていたという小台坂
数十年前まで街道らしい雰囲気が
残されていたという小台坂
小台坂には大山街道をゆく人々に煙草や地酒、わらじなどを売る店が並んでいました。いまはその面影は見あたりませんが、緩やかにカーブしながら上っていく道に当時の情景を想像しながら、一歩一歩進んでいきます。
 『大山街道』の地図を見て、小台公園の手前の道を右折。住宅街の細い道を行くと、鷺沼駅へ向かう広い通りに出ます。ここから宮崎小学校のあたりまでは、馬絹と有馬の境を走る尾根道。品川沖に浮かぶ舟の帆が見えたそうです。庚申坂、八幡坂、小台坂と上り下りした大山街道の旅人たちも、その風景を目にしたでしょうか?

08年7月に散歩しました。
●参考資料/宮前ガイドブック(宮前区発行)、大山街道(川崎市立多摩図書館)ほか
文・写真・イラスト:森田奈央 川崎市在住のフリーライター。散歩が好きで、好奇心のおもむくままに日々歩きまわっている。著書に猫を追いかけて歩いた「ネコ路地へ行こう」(小学館文庫)。