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坂道は続くよ、どこまでも

第15回「見晴らし坂」の巻

宮前区は丘陵地帯に位置し、坂道が多いところ。区内には公募によって愛称が制定された坂道が18カ所あり(昔からの呼び名を持つ坂道も含む)、それらの坂には命名の由来を記した標識がそれぞれ設置されています。
地域の人々に親しまれ続けてきた18カ所の坂道を上って下りて、周辺を散策してみましょう。
この坂は、生田緑地、登戸、多摩川、東京方面を一望でき、見晴らしがとてもよいことから愛称としました。
平成13年2月1日制定

坂道データ

Data-15

【名称】見晴らし坂 みはらしざか
【所在地】五所塚1丁目
【緯度経度】始点E139.34.42.6N35.36.12.5/終点E139.34.48.3N35.36.8.9
【アクセス】川崎市バス・東急バス切通し上停留所から始点まで徒歩約10秒
【長さ】約400m
【形状】始点付近はほぼ平ら。右へカーブ後、徐々に傾斜が出てきて急な上りになり、約100m付近で左へ大きくカーブ。急な上りのまま、約250m付近で今度は右へ大きくカーブ。ストレートになった後、左に少しカーブして終点へ。
【様子】S字型。左カーブ地点と終点付近で見晴らしが広がる。日中の歩行者、自動車の交通量はとても少ない。坂沿いには一軒家が並び、斜面になっているところも多い。終点は車両行き止まり。
【休憩地】終点そばの五所塚第1公園にベンチあり。
【その他】始点そばに看板「路面凍結スリップ注意」が立てられている。坂の途中の脇道にも見晴らしがよいところあり。
始点
始点
途中
途中
終点
終点
大きな桜の木の下にベンチが置かれた
五所塚第1公園
大きな桜の木の下にベンチが置かれた
五所塚第1公園
終点には「川崎市水道局 長尾配水塔」の
門がある
終点には「川崎市水道局 長尾配水塔」の
門がある

散策ノート

南に西に北に次々と見晴らしを楽しめる坂

かつては雑木林が広がっていたそう
かつては雑木林が広がっていたそう
見晴らし坂は、「坂道は続くよ、どこまでも 第2回 鶴喉坂の巻」の鶴喉坂の近くに位置しています。始点から終点までの高低差がとても大きく、上りはあっという間に息ゼイゼイ。路面に「スクールゾーン」と書かれているのを見て、ここを毎日通ったら足腰が丈夫な大人になりそうだなあと考えます。
 始点を出発して右カーブを曲がると、右側に生垣が続き、その向こうにはすでに家の屋根を見下ろす風景。左へ大きくカーブする地点で右側に見晴らしが広がります。右手の丘には向ヶ丘遊園跡地の雑木林、左手の丘には市営高山住宅の団地。丘と丘に挟まれた谷間には家々がびっしりと建っています。
向ヶ丘遊園跡地に接する切り通しの向こうに
東京方面を眺望
向ヶ丘遊園跡地に接する切り通しの向こうに
東京方面を眺望
右へ大きくカーブする手前で、左に入っていく脇道にちょっと寄り道。「宮前バスの旅 第11回 向01 向丘遊園駅東口-梶が谷駅の旅」で、あじさい寺として有名な妙楽寺へ行ったときに見つけた道で、向ヶ丘遊園跡地と切り通しを眺められます。
 切り通しを見下ろすと、先ほど出発した見晴らし坂の始点。鶴喉坂と反対の方に目を移動させると、切り通しの向こうに東京方面の眺望が見渡せます。多摩川の土手がマンションとマンションの間に見えました。

富士山を眺望する尾根筋に残る遺跡と信仰塚

終点近くにある駐車場は迫力満点!?
写真上部中央に肉眼では富士山が見えた
終点近くにある駐車場は迫力満点!?
写真上部中央に肉眼では富士山が見えた
終点の近くまで来たところで、「富士山が見えているよ」と散歩中のお父さん。山々の連なりの上に、富士山が頭をすっくとのぞかせています。「冬場の天気がよい日の朝8時くらいまではきれいに見えるんだけどね、昼になるといつもぼやけちゃうんだよね」。確かに富士山はぼやーっとしていて、いくらカメラのシャッターをきっても写真に写りません。
 「ここ20年くらいだよ。こんなにたくさん家が建ったのは。この坂だって今はきれいに舗装されているけど、けもの道みたいなものだったんじゃないかなあ。ウサギとかタヌキとか生田緑地の方からずーっと上ってきてね。この道は尾根づたいに東高根森林公園まで続いているんだ」。
 家がびっしりの谷間は雑木林だったとお父さん。「この坂から府中の方まで眺められたし、八王子まで見える日もあったよ」。
地上に中世・近世の五所塚、
地下に縄文時代の権現台遺跡が残る場所
地上に中世・近世の五所塚、
地下に縄文時代の権現台遺跡が残る場所
終点に「川崎市水道局 長尾配水塔」の門。あれっ!? と思ったのは、鶴喉坂を訪れたときにあった水色の水道タンクがなくなっていたから。「去年かおととし、取り壊されたんですよ。もう使われていなかったみたいでね」と、犬を連れたお母さんが教えてくれます。
 水道タンクが消えたフェンスの中を何度ものぞきながら、五所塚第1公園へ。ここには直径4メートル、高さ2メートル前後の塚が5つ南北に並び、古くから「五所塚」と呼ばれてきました。中世や近世に民俗信仰に基づいて村境や尾根筋に築かれたものだと考えられています。
 さらに、五所塚がある台地の地下からは縄文時代の集落跡「権現台遺跡」が発掘されました。昭和33年(1958)の調査では竪穴住居跡4軒、炉跡2基などが発見。とくに河原石を配した遺構は狩猟にまつわる祭りを行ったと思われる重要なものだそうです。

坂を上れば、さまざまな見晴らしに出会える

ふじやま遺跡公園。
古代遺跡でゲームをしている姿が
なんとなくおもしろい
ふじやま遺跡公園。
古代遺跡でゲームをしている姿が
なんとなくおもしろい
長尾神社の前で「長尾台住宅案内図」を見ていて目が留まったのは、「ふじやま遺跡公園 長尾台遺跡」の文字。ご近所にまたもや遺跡! これは行ってみなければと、以前訪れた妙楽寺の前を右折。住宅街を進みます。
 急階段と急スロープをやっとやっとで上り、標高90メートルほどの高台にあるふじやま遺跡公園に到着。なんと東南西の三方が開けている公園で、すぐそばの道路からは北側の東京・多摩川方面も一望できます。
 あずまやでは子どもたちが額を寄せ合ってゲーム中。その足下には縄文、弥生、古墳時代の集落跡があり、昭和44年(1969)〜45年(1970)の調査では竪穴住居址が発掘されました。当時の人々にとって日当たりがよく、眺望のすぐれた台地は生活するうえで好まれる場所だったのでしょう。
畑の向こうに
180度どこまでも続く見晴らし
畑の向こうに
180度どこまでも続く見晴らし
住宅街を戻っていく途中で、またまた眺望が抜けている場所を発見。どれどれと行ってみると、畑の向こうに登戸・宿河原方面の視界180度の景色が目に飛び込んできました。
 畑で仕事をしていたお父さんが、「見晴らしが最高だから、作業していても気持ちいいよ!」。うん、いつまでも眺めていたい風景です。
 見晴らしはいつ、どこから、どのように眺めるかによって表情をさまざまに変化させるもの。見晴らし坂とその周辺では、そんな人々を魅了してやまない見晴らしをめいっぱい眺めることができます。


09年1月に散歩しました。
●参考資料/宮前区ガイドブック(宮前区発行)ほか
宮前区ガイドブック(宮前区発行)の「宮前区全図」を参考に、坂道の標識が立っている坂の上り始めを始点、その反対側を終点としました。

文・写真・地図:森田奈央 川崎市在住のフリーライター。散歩が好きで、好奇心のおもむくままに日々歩きまわっている。著書に猫を追いかけて歩いた「ネコ路地へ行こう」(小学館文庫)。