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かわさきマイスター活動レポート

てくのかわさき技能フェスティバル2010

かわさきマイスター20人が熟練技を披露

大橋 明夫 さん ――プレス順送金型設計製作

全工程を1個の金型に組込み、1台のプレス機で製品を仕上げるプレス順送。量産と工程の省略化には大きなメリットがありますが、専用の金型は非常に複雑な構造となり、製作には高度な技術が要求されます。大橋さんは、その設計製作のプロフェッショナルであり、一枚の金属板をしごいて筒状にする「絞り」の技術など、優れた技術を擁する技能者です。

ガス器具部品(上)と自動車部品(下)
ガス器具部品(上)と自動車部品(下)
金型の複雑さは、展示品を見るとよくわかります。例えば、横穴があいた小さな自動車部品。プレスは縦方向の動きしかしないので、ななめの動きができるカムスライダーが働いてパンチが側面に直角にあたるよう、金型を設計します。展示品の場合、4回、パンチがあたらないと穴はあかないとのこと。大橋さんは顧客から渡される設計図を解読し、製品をイメージしながら、金型設計するといいます。「一箇所ずつ、細かいところまで気を使って作っているから、手作りと同じです。布団の中でもどうやったらうまくいくか、考えています」とマイスター。一枚の金属板から順送加工品が形作られていく過程を紹介した展示を指さし、「これがだんだん変わるの?」と尋ねた子どもに、「そうだよ」と優しく答えていました。

只木 角太郎 さん ――洋服仕立て

日本でただひとり、紳士・婦人服どちらも扱う仕立て職人、只木さん。通常、分業であるデザイン、パターン、縫製の全工程をひとりでこなす、稀有な才能の持ち主でもあります。デイリーユースはもちろん、オートクチュールまで、あらゆる洋服を仕立てる卓越した技能を持ち、海外ファッションショーの経験も豊富です。技能フェスティバルでは、紳士物ジャケットの仮縫いを実演したほか、洋裁に関する相談にも気軽に応じていました。旦那さんのジャケットを手作りしているという女性は、プロの技術で型紙を丁寧に直してもらい、大感激の様子でした。

艶やかなうち掛けの羽織。これを脱ぐと、同じ生地で作ったワンピース、さらにその下にゴールドのスパンコールのキャミソールと緑色のロングドレスを着ています
艶やかなうち掛けの羽織。これを脱ぐと、同じ生地で作ったワンピース、さらにその下にゴールドのスパンコールのキャミソールと緑色のロングドレスを着ています
展示で特に目をひいたのは、パリで開催された国際ファッションショーに出品し、250点ある作品の中でフィナーレを飾ったという、うち掛けの羽織。ある日本人モデルから「能」をイメージして作った作品で、うち掛けを購入し、デザインに合わせてリフォームしたそうです。白地に鶴の赤と黒、松の緑が艶やかなうち掛けは、洋風に仕立てると、オリエンタルでゴージャスな雰囲気に一変。マイスターの抜群のセンスが伺われます。「ふだん作れないものを創作できるので、ショーは特に楽しい」と只木さん。ショーの作品はどれも、夢や遊び心にあふれています。

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関戸 秀美 さん ――神社寺院銅板屋根工事

日本でも数少ない銅板屋根職人の関戸さん。土台の形状に合わせ、金属板を鎚で叩いて整形する「絞り」は板金の高等技術ですが、関戸さんは0.3ミリ~0.5ミリの薄物から、1~1.5ミリの厚物まで自在に絞りをこなせます。また、金属板を鎚で叩いて「擬宝珠(ぎぼし)」などの金属工芸品を作る、「鎚起(ついき)」の技術など、卓越した技を持っています。これまで、赤坂迎賓館や鎌倉・鶴岡八幡宮など、名建築の屋根の修理改修でも腕前を発揮してきました。

鏨で銀の指輪に模様をつけます
鏨で銀の指輪に模様をつけます
金属板に細かい加工を施す金属棒が、鏨(たがね)。仏像の台座の蓮弁を彫るためにも用いられる道具です。先端の形が異なる鏨を組み合わせ、花瓢箪や勝虫(かちむし=トンボ)などの模様を施した銀の指輪は、マイスターの実演会でいつも人気を集めています。この日も技能フェスティバルに通って4年目という女性が訪れ、4個目の指輪を作ってもらっていました。「今、こういう仕事は貴重。鏨でつけた模様はかわいいし、手作りの良さがあるわ」と女性。内側にイニシャルも彫ってもらい、大満足の様子でした。むやみに叩くと、柔らかい銀はのびてしまう、と関戸さん。「そういうところも計算して作ります」と教えてくれました。

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鍵屋 清作 さん ――金属ヘラ絞り

円形状の金属板を機械に挟み、ろくろの要領で回転させながらヘラ棒で押さえて、円錐状・筒状など丸みを帯びた製品を作る加工法が金属ヘラ絞り。鍵屋さんはこの道50年の大ベテラン。熟練の経験と勘だけで、ムラを出さずに図面通りに製品を仕上げます。製品は直径5ミリのボールペンキャップから、直径1500ミリのパラボナアンテナまで様々。小さな製品には短いヘラ棒、大きな製品には長いヘラ棒と、使い分けるそうです。

ヘラ棒を脇に挟んで作業するので、「金属の感覚が伝わっていくる」と鍵屋さん。「例えば、ステンレスは硬いので、無理に絞ると反発してくる。それをだましだまし絞ります。今は自動機もありますが、金属とコミュニケーションをとれるところが手仕事の面白さ」といいます。パラボナアンテナのような大型製品や、複雑な形状の製品は、機械で製造するのが困難なため、鍵屋さんが持つ優れた技術は、製造業、そして私たちの暮らしにとって欠かせません。

ビールジョッキは大・中・小の各サイズを販売。小は午前中で売り切れました
ビールジョッキは大・中・小の各サイズを販売。小は午前中で売り切れました
ヘラ絞りによる製品は、意外なところにも使われています。例えば、スーパーの陳列台の金属部分。鍵屋さんは「他人の仕事が気になるので、つい見ちゃうんだよ」と話してくれました。この日はビールジョッキ、一輪挿し、皿などを展示販売していましたが、よい製品は表面がつるつるしている、と鍵屋さん。金属の表面に入った「ヘラ目」が荒いのは、職人の技術がつたないから。もちろん、鍵屋さんのジョッキは、ビールが美味しくなりそうな、滑らかな光沢を放っていました。

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流石 栄基 さん ――印刷技能士

写真や絵画を色鮮やかに再現するカラー印刷。その色はすべて、YMCK(黄、赤、藍、黒)の4色のドットの組み合わせで構成されています。色の再現において、コンピューターである程度の色までは出せますが、そこからどれだけ実物に近づくことができるかは、職人技の世界。4色のドットの割合をほんの1~2%調節する、さじ加減が必要です。流石さんは、経験と感性の双方が求められる色の再現において、高度な技術を発揮して発注者の注文通りに仕上げる技能者。雑誌「ぴあ」の表紙イラストでお馴染みの及川正通氏をはじめ、一流のアーチストたちからも厚い信頼を集め、画集や写真集など数々の印刷物を手掛けています。会場には、キルティングアートの第一人者、米倉健史氏からの依頼で制作したポスターも展示されていました。

2008年国際カレンダー展でプリンティングディレクターとして銀賞を受賞した作品
2008年国際カレンダー展でプリンティングディレクターとして銀賞を受賞した作品
流石さんはスキャナーを使って色分解(色原稿を4色に分解して各色の濃淡を表す画像を作ること)する技術者でもあり、長年、色分解の仕事に携わって身に付けたノウハウが、色の再現に役立っているといいます。「ドットでどんな色になるかを考え、色を作っていくんです」と流石さん。「人物写真の顔色を明るくするといっても、シャドウ(濃い色)、中間、ハイライトがあり、どこに手を入れるかで仕上がりが違ってくる。階調や画像コントラストを考えて、ドットに反映させます」と説明してくれました。


石塚 よしこ さん ――洋裁技能士

「既製品にはない、体にぴったりフィットする服を作れるのが手作りのよさ」と話す石塚さん。顧客の体型の特徴を正確に捉えて立体的にデザインすることから、それを一枚の型紙に反映させるパターン、裁断、縫製など、各工程で創意工夫を凝らし、顧客にとって最高の着心地の服を仕立てています。特に、型紙に沿って生地を切りとる裁断は、出来栄えを左右する大事な工程ですが、この裁断が早くて正確であることも、石塚さんの得意とするところ。また、薄くて柔らかいシルクなど、加工が難しい生地でも、素材の特性を生かして仕立てあげる名人です。

展示のピンクのツーピースは、素材の横じまを生かすため、切り替えを入れ、コサージュをつけました。「線が入っているので、細身に見えるのよ」と石塚さん。素材の特性を知り尽くしたマイスターならではの、洗練されたデザインです。また、川崎洋装組合と協力して販売した袋物は800円~1500円、エプロンが1500円と、どれも手頃な値段。石塚さんはじめ川崎市内のプロが作った商品はデザインや縫製もしっかりしているとあって、多くの来場者が訪れ、手にとって選んでいました。


吉田 良雄 さん ――靴製造(展示)

織田信成選手のスケート靴型
織田信成選手のスケート靴型
吉田さんは、木型の調整が難しいフィギュアスケート靴作りを得意とする、靴製造の達人です。選手の滑りの特徴や要望をふまえ、牛皮の裁断、専用の木型作り、つま先の素材の折り込みなど、随所に熟練の技と創意工夫を施します。その技術は高く評価され、国内外で活躍する一流選手のスケート靴も多数、手掛けています。この日は、織田信成選手のスケート靴型が展示され、来場者は足を止めて興味深そうに眺めていました。